USTR代表に指名されたグリア氏は、米通商法122条に基づき大統領権限で一律追加関税の実施が可能と主張
グリア氏とライトハイザー氏
トランプ氏は米通商代表部(USTR)代表に、ジェミソン・グリア氏を指名した。同氏は通商法などを専門とする弁護士であり、対中強硬派である。第1次トランプ政権ではライトハイザー元USTR代表の側近として、中国や日本との貿易交渉の実務にもあたった。トランプ氏が掲げる追加関税策の実施や相手国との交渉を担うことになる。 トランプ氏は当初、USTR代表にトランプ政権一期目で代表をしていたライトハイザー氏を再指名する考えであったが、同氏は財務長官などのポストを望み、それを辞退した。同じく財務長官のポストを望んだラトニック氏が、USTRも所管する形で商務長官に指名されたことで、ライトハイザー氏はUSTR代表になることも難しくなり、閣僚人事から外れることになった。追加関税など貿易政策でトランプ氏が掲げた公約の多くは、ライトハイザー氏から継承したものとされる。貿易政策で大きな影響力を持つライトハイザー氏が、2期目のトランプ政権でどのような役割を果たすのかは、大きな注目点だ。
グリア氏は通商法122条を根拠に大統領権限のみで一律追加関税が可能と主張
一期目のトランプ政権は、中国を中心に個別品目に次々と追加関税をかけた。しかし、今回トランプ氏が掲げるのは、個別品目ではなく輸入品全体に関税をかける一律関税だ。それを大統領の権限だけで実施するのは、法的に問題が生じる恐れがある。 グリア氏は、通商法122条を法的根拠にすれば、議会の承認なく大統領権限で関税引き上げを即実施できるという考えを示してきた。通商法122条は、巨額かつ深刻な("large and serious")貿易赤字が発生している場合、最大15%の関税賦課を大統領に認めるという規定だ。 追加関税を大統領権限のみで課すことができるように、精緻な法解釈を行い、それを広く受け入れさせることが、トランプ氏がグリア氏に課したミッションだろう。
日米交渉では事実上、自動車と農産物の取引となるか
トランプ一期目と異なり、2期目のトランプ氏は個別品目への関税ではなく、一律関税を目指している。その分、相手国のみならず米国が受ける打撃も大きくなる。また相手国との交渉はより難易度を増す。日米貿易摩擦は、個別品目が対象となることが過去には多かった。例えば、米国政府が日本からの自動車の輸入に関税をかけると脅す場合には、日本側は対米自動車輸出を自主規制することで、それを回避してきた。しかし今回は、品目を問わない一律関税をトランプ氏は日本に対しても課そうとしているため、交渉はより複雑である。 トランプ政権一期目には、日本からの自動車輸出への大幅関税導入回避と日本の米国からの農産物輸入拡大とがトレード(取引)された。日本から米国向け輸出の主力は、自動車・自動車部品関連であることから、今回も事実上、「農産物」と「自動車」が取引されるのではないか。 日米貿易交渉では、米国側はトランプ大統領、USTR、商務省が主に関与する。いずれも強者揃いである。それに対して日本側は、通産相、経済・財政担当相、農水相、石破首相という交渉の布陣である。交渉経験が豊富でない日本の布陣を見ていると、米国側に有利な形で貿易交渉が押し切られ、石破首相が最終的にトランプ大統領の要求を丸呑みしてしまうリスクを感じざるをえない。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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