《安倍政権5年》特区『民泊』解禁 さらに新法律成立、競争激化の可能性も
「普段の日本の暮らし体験したい」訪日外国人のニーズも変化
特区によって民泊を解禁した大田区では、解禁から2017年6月末までに1129人が民泊を利用しています。大田区の民泊は、6泊7日以上の利用をしなければならないきまりになっています。つまり、特区民泊によって約7000泊を供給した計算になります。 しかし、大田区健康政策部生活衛生課の担当者は、「民泊特区の導入に踏み切ったのは、外国人観光客の急増で宿泊施設が不足したことだけが理由ではありません」と言います。 2017年8月末時点で、大田区内にはホテル8軒・旅館69軒・カプセルホテルなどの簡易宿泊所が22軒、合計で99軒の宿泊施設があります。こうした宿泊施設のほかにも、大田区内には「天然温泉 平和島」のような寝具の提供を伴わない休憩施設があります。休憩施設には温浴施設や仮眠スペースなどもあり、これらを宿泊施設の代わりに利用している外国人観光客は決して少なくありません。 「特区民泊を導入した背景には、宿泊施設の不足を補うという意味はもちろんあります。しかし、外国人観光客のニーズが大きく変化していることも理由のひとつです」(同) これまでの訪日外国人観光客は、食事や買い物を楽しむ“モノ消費”がメインでした。ところが、外国人観光客はリピーターも多く、そうした外国人観光客は『普段の日本の暮らしを体験したい』『日本の文化に触れたい』という“コト消費”のリクエストが強いのです。 「マンションやアパートに泊まることも、日本の日常生活を体験してもらう“コト消費”につながります。そうした事情も踏まえて、大田区は民泊解禁に踏み切ったのです」(同)
いまは業者と共存共栄……でも、民泊は“パンドラ”?新法律施行で競争激化の可能性
当初は大田区の民泊解禁に対して、宿泊事業者は客を奪われる懸念から反対をしていました。しかし、最近はインターネットを介してマンションやアパートの一室を旅行者に貸すことが容易になっています。闇民泊事業者が増え、そうした事業者に客を奪われるようにもなりました。 「そうした背景もあり、宿泊事業者も『行政が関与することで安全・安心を担保できる』と民泊を容認するようになり、現在は宿泊事業者と民泊で共存共栄がはかられています」(同) ところが、民泊を巡る宿泊環境の変化は国家戦略特区だけではありませんでした。このほど住宅宿泊事業法が成立し、来年6月に施行されることが決まりました。これまでの特区民泊に加え、住宅宿泊事業法でも新たに民泊が認められたのです。特区に依らない民泊を可能にした住宅宿泊事業法は、民泊新法とも呼ばれます。民泊新法は特区民泊とは異なり、地域を限定していないために全国どこでも民泊が可能です。他方で、民泊新法による営業日数は年間180日以内と制限されているため、事業として採算を取ることは難しいとされます。 しかし、民泊新法によって民泊競争が激化することは確実です。特区民泊につづいて旅館業法で営業しているホテルや旅館にとって、さらなるライバル出現であることは間違いありません。 国家戦略特区によって開かれた“民泊”というパンドラの箱は、宿泊・観光産業のみならず国際化・多文化共生といった面にも大な影響を与えるでしょう。それが、どのように私たちのライフスタイルを変化させることになるのでしょうか? 小川裕夫=フリーランスライター