大谷翔平はアジア人だから「ストライク判定」が不利になる? SNSでささやかれる説の真偽
かつてはバイアスが存在していたが……
メジャーの審判も、当然このような人種差別を避けるように訓練を積んでいると思われます。 実のところ、少し古いデータを使った分析では、内集団バイアスによって判定が不利になる可能性が指摘されています。 たとえば、南メソジスト大学のスレイマンらは2004年から2008年のデータを分析し、人種マイノリティの投手が白人球審からストライクゾーンを狭く取られ、投手もそれを理解しゾーン中心付近に投げる傾向がみられることを示しました。 もちろん、近年の分析(たとえば2017年を対象としたブリンマー大学のベルデューチの研究)では、投手と球審の人種の違いによる判定の不利はなくなっているというのが、統一的な見解となっています。メジャーという大きな注目が集まる競技ですから、審判も人種差別反対を掲げ訓練している様子がわかります。 ストライクゾーンの判定と同様、選手の待遇についても差別があったものの解消されていることが示されています。 ヴァージニア大学のトッベンの研究によれば、1998年から2006年の間、黒人選手の年俸が白人選手よりも最大2割低いが、2004年から2019年までのデータでは人種による年俸の違いはみられなかったとしています。 このように人種による内集団バイアスは、かつて存在したものの、それを解消するよう前進する様子がうかがえました。
いまだにバイアスが残る分野も
一方、アメリカの著名な新聞である『The Boston Globe』はいまだに人種によるバイアスが拭えていない分野として、スカウティングを挙げています。 彼らは、もちろん多くのスカウトが人種のバイアスに陥らないよう努力していると前提を置いたうえで、それでも選手の人種によってスカウトの評価に用いられる言葉が異なると指摘します。 この記事のなかでは、ジャーナリストが7万件のスカウトレポートを調査しました。その結果、リーダーシップがある、競争力があるといった言葉は白人選手に用いられがちで、未熟や洗練されていないという言葉は有色人種の選手のスカウトレポートに用いられがちであると示しています。 また、メジャーの常勤スカウトの67%が白人であり、選手の白人割合(約50%)に比べて、スカウトが多いことがわかりました。同様に、アメリカの大学野球のコーチは89%が白人であり、選手の割合が乖離しています。 このような背景から、人種によるバイアスが選手のスカウティングや評価の仕方に影響を与え、体系的な偏見が評価に忍び込んでいるのではないかと、主張されています。 このように、判定、年俸、スカウティングといった野球の要素においても、人種による差別や内集団バイアスが見え隠れします。スポーツは社会問題の可視化、およびその解決にどれくらい取り組めているかを測るバロメーターとしても有効といえます。