「完全予約制に」「違和感を考えて」下着メーカー・ワコール “性別にかかわらない” 接客方針に波紋…同社の見解を直撃
下着メーカー「ワコール」が、8月に公開した従業員向けの手引きが物議を醸している。 【画像あり】ワコールが発表した新しい指針の一部 「同社は『ワコール』をはじめ、『Salute』や『AMPHI』など、おもに女性向け下着ブランドを多数展開する大手下着メーカーです。そんな同社が示した新指針は、時代の流れに沿って、LGBTQや障害者の方にも寄り添い利用しやすくする、という内容でした。 《性別にかかわらず、お客さまの要望をお聞きしながら、商品選びのご相談に対応することが基本方針》 としています。たとえば、性自認が異なる顧客に対しては、 《性別にかかわらず利用できるフィッティングルームがある場合は、ご案内しましょう 今後、ご案内可能なワコール店舗や性別にかかわらず利用できるフィッティンクグルームがある売場を、ホームページでご案内する予定です》 という記載もあります」(ファッション誌ライター) 同社の取り組みに、X上ではさまざまな意見が飛び交っている。 《掲げている理想自体は賛成できる状況なら賛成したい》 《企業がこうした指針を整備してくれていると、消費者としても安心できます》 《弱者優遇で女性支援が拡大してきた以上、女性よりも弱者である性的マイノリティーや子供への支援が拡大するのは道理としては仕方ないだろうね》 このように、同社の理念に賛同する声があがる一方で、別の声も聞こえてきた。 《性別に関わらず利用できる試着室ってなに トランス自認男性や女装男性が出入りするショップは不安です 売物のブラを試着して自撮りで興奮する男もいるし、盗撮も心配》 《正直なところ女性側の、男性の身体的特徴を持ったままの人が女性用下着売り場にいる違和感(不信感)も考えて欲しい》 《ワコールは本当に悩んでる人向けに完全予約制のLGBT専用店舗作ればいいじゃん。クローズドな環境ならアウティングにもならないだろうし》 実際、ワコールの指針に不安を感じ、店舗に問い合わせたという都内在住20代女性はこう語る。 「時代の流れを考えると同社の取り組みは理解できますが……性別に関わらず利用できる試着室があると知って不安になりました。 実際に試着するときは、狭い空間にいくつか並んでいる個室のなかで下着姿になります。その個室は、カーテンだけで仕切られている店舗もあります。正直どんなことになるのか怖いな、と思ったんです。 私がいつも利用する池袋の店舗に聞いてみたら、『当店では女性のみが試着室を利用できるのでご安心ください。店舗によって違うので、ご利用前に問い合わせてみてくださいね』と言われました」 本誌は改めて新しい指針について、ワコールに見解を尋ねた。まず、8月に公開された新指針の意図についてはこう説明する。 「ワコールグループでは、より多様なお客さまへの対応をおこなうためにも、従来のお客さま対応のガイドラインのアップデートを喫緊の課題として認識していました。 また、2024年4月に障害者差別解消法が改正されたこともあり、店頭における合理的な配慮についても取り組む必要がありました。 ワコールグループでは『消費者の人権尊重』を重要な人権課題と認識していることから、役員・従業員が人権に対して理解を深めることが欠かせないと考えています。 それらを背景とし、『多様なお客さまが利用しやすい売場づくりと接客のためのハンドブック』を作成いたしました」 試着室の利用については、外見と会話内容で “女性” だと確認できた場合のみだという。 「あらためて誤解のないようにお伝えしますが、ハンドブックのなかにも記載させていただいたとおり、ワコールでは女性インナーウェア売場におけるフィッティングルームの利用やフィッティングルーム内での接客は、外見や会話内容から判断し、女性だと確認が取れたお客さまに限らせていただくことに、従来から変更はございません。 また、売場に、性別にかかわらず利用できるフィッティングルームがある場合もございます。状況に応じて他の売場のフィッティングルームが利用できる場合は、そちらにご案内いたします」 「性別にかかわらず利用できるフィッティングルーム」とは、多目的試着室や近隣の紳士・スポーツ売場などのものを指すという。つまり、原則として外見や会話内容をもとにした “女性” への接客のみという方針は変わらないわけだ。 「これほどワコールの方針が注目されたのは、とくにトランスジェンダーをめぐる日本国内での法的な動きを反映したものでしょう。 直接的な発端は、2023年10月に最高裁が出した判決です。トランスジェンダーが戸籍上の性別を変更する際の要件を定めた『性同一性障害特例法』について、生殖能力の喪失を求める『生殖不能要件』は違憲だと判断したのです。 さらに7月には広島高裁が、同法において性器の見た目の変化を求める『外観要件』について、『手術が必須なら違憲の疑い』という判断を下しています。 法律を違憲のままにはできませんから、各党が『性同一性障害特例法』の改正に向けて議論を活発にさせている最中です。 こうした背景を受けて、見た目が男性のままの人が『女湯に入るのではないか』『女性トイレを利用するのではないか』といった議論が交わされ、不安を感じる人たちが増えています。ワコールもこうした事例の一つとして、ネット上で槍玉にあげられたのでしょう。 ただ、ワコールはあくまで女性用の試着室は、外見や会話内容をもとにした “女性” に限るとしているので、そこまで心配することではないのではないでしょうか。 そのうえで、今後は性別に限らず利用できるフィッティングルームを用意するわけですから、非常に慎重な対応といえるでしょう」(社会部記者)