<甲子園交流試合・2020センバツ32校>けがを克服、夢の打席 山梨学院・渡辺嵩馬選手(3年)
◇渡辺嵩馬(しゅうま)選手 17日閉幕した2020年甲子園高校野球交流試合の最終戦。山梨学院の背番号8、渡辺嵩馬(しゅうま)選手(3年)が甲子園で今年の公式戦初出場を果たした。レギュラー格を示す1桁の背番号ながらも6月に腰椎(ようつい)分離症と診断され、山梨県の独自大会でも先発メンバーから外れていた。 【真夏の熱闘】交流試合の写真特集はこちら 「打てるだろ、行ってこい」。四回表、1点を勝ち越して2死二塁。なお続くチャンスで吉田洸二監督(51)から代打を告げられた。新型コロナウイルスの影響による春夏の大会の中止に加え、自身の故障も重なり、忍耐の時期を過ごしてきた。表情を引き締めて「つなぐぞ」と打席に入った初球。これまでの鬱憤を吹き飛ばさんばかりのフルスイングで、闘志を示した。 50メートル5秒97の俊足を生かした広い守備範囲と、昨秋の公式戦でチーム5番目の10安打を記録した鋭い打撃が持ち味。1年からベンチ入りし、19年のセンバツと選手権大会で甲子園の土を踏んだ。今季は1番・中堅手。チームのけん引役と期待された。 腰に違和感を覚えたのは1月ごろ。5月に激痛が走り、翌月、腰椎の一部が疲労骨折している腰椎分離症と診断された。練習や試合から離れざるを得なかった。 それでも県独自大会を前に、吉田監督から背番号8が渡された。「プレーできない自分がベンチに入っていいのか、他の選手に申し訳ない」。そんな葛藤もあったが、これまで支えてくれた仲間の姿を思い出し、「自分がこれまでやってもらったことをメンバーにしよう」と心に決めた。練習ではティーバッティングのトス上げをし、チームメートに飲み物を運んだ。独自大会中も攻守が切り替わる度に、選手たちの首に氷の入った袋を当て、緊張している選手がいれば「いつも通りやれば大丈夫」と積極的に声を掛けた。 出場できないことも覚悟していたが、「プレーできるなら仲間や両親、地元の人たちのために全力で戦いたい」と控えでベンチ入りしたこの日。打撃では2打席とも三振だったが、守備では左中間の大きな飛球を全力で追いかけ飛びつく果敢なプレーも見せた。試合終了のサイレンが響くと万感の思いで校歌を歌った。試合後、「成果を出せなかった後悔はあるが、これは野球の神様が『もっと頑張れ』と言っているのだと思う。復帰を待ってくれた仲間たちにありがとうと伝えたい」と夢舞台を後にした。【金子昇太、隈元悠太】