A級戦犯はなぜ太平洋に散骨されたのか 75年前の極秘文書発見 アメリカ軍は「超国家主義」の復活を恐れていた
「極秘」のスタンプが押された75年前の米軍公文書が見つかった。そこには、極東国際軍事裁判(東京裁判)で死刑となった東条英機元首相らA級戦犯の遺骨を太平洋に散骨した理由や経緯が記されていた。「英雄や受難者として崇拝される可能性を永久に排除すべきだ」。第2次大戦後の日本で軍国主義の再来を防ごうとした米軍。日本の戦時体制を指す「超国家主義」の復活を恐れ、散骨を決めた過程が鮮明に浮かび上がった。(共同通信=野見山剛) 101歳の「ナチス戦犯」に禁錮刑、ドイツ司法機関が懸命の追跡 親衛隊の大物はみな死亡、残るは下級隊員
▽今も昔も変わらない米軍の論理 米軍の公文書の記述を遺族はどう受け止めるのか。東条元首相のひ孫の英利さんに連絡を取り、概要を伝えると冷静なコメントが返ってきた。 「ビンラディン容疑者も水葬でした。米軍が遺骨を海に散骨した理由は特に驚きません」 ビンラディンは国際テロ組織アルカイダの指導者で、2001年9月11日の米中枢同時テロの首謀者だ。米軍は2011年5月、パキスタンで殺害後、アラビア海上の空母から遺体を水葬にした。当時の米メディアの報道によると、埋葬すれば遺体を奪還するための攻撃が起きる可能性を米政府は懸念したという。 東条元首相らは、米国など連合国が1946年5月に開廷した東京裁判で「平和に対する罪」などに問われた。1948年11月に東条氏ら7人に死刑判決が言い渡され、12月23日に東京の巣鴨プリズンで処刑。その日に横浜市に運んで火葬後、米第8軍のルーサー・フライアーソン少佐が軍用機から太平洋に散骨した。
戦犯の海洋散骨とビンラディンの水葬は、半世紀以上の隔たりがあるものの、敵対した指導者が崇拝対象にならないよう海に葬る点が共通している。1948年に作成された公文書から、21世紀になっても変わらない米軍の一貫した論理がにじんだ。 ▽公文書発見の端緒はネット検索の情報 入手した公文書は、米メリーランド州の米国立公文書館新館が所蔵していた。戦後の日本占領期に、旧日本軍の戦争犯罪に関する業務を担った連合国軍総司令部(GHQ)法務局の文書の中に埋もれていた。 取材の端緒はインターネットでの検索だった。かつて戦犯裁判に関する取材で米軍の記録に目を通した経験を踏まえ、「戦犯」「処刑」「最終処分」などの英単語を組み合わせて入力。目に留まった外国人研究者の論文の脚注などを手がかりに、東京・永田町の国立国会図書館で、関連しそうな米国立公文書館所蔵の複写文書を閲覧した。 ただ、複写文書はフィルムに焼き付けたマイクロ資料と呼ばれる形態で、ページによってはアルファベットの小さな文字がほぼつぶれていた。その中に戦犯の散骨に触れた文書が紛れ込んでいることに気付いたが、全文を読み取れない。そこで文書に記された資料番号に基づき、つてを頼り米国立公文書館から複写を入手すると、ほぼ鮮明に読むことができた。