A級戦犯はなぜ太平洋に散骨されたのか 75年前の極秘文書発見 アメリカ軍は「超国家主義」の復活を恐れていた
A級戦犯が太平洋に散骨された事実は、かつて日本大生産工学部の高澤弘明准教授(法学)が米国立公文書館で資料を入手し、判明した経緯がある。今年1月、高澤准教授に連絡を取り、他の資料とも突き合わせ、半年ほどかけて公文書の記述を精査した。 ▽米軍の「参謀研究」に記された検討プロセス 入手した公文書は1948年6~8月、GHQ最高司令官のマッカーサー元帥が率いる米極東軍が作成した。東京裁判が48年4月に結審した直後に当たる。判決の期日は決まっていなかったが、後は判決を待つだけの状況となっていた。 一連の公文書で目を引いたのが、48年7月21日の「参謀研究」だ。処刑後の戦犯の遺体をどうするかについて7ページにわたり詳述。東京・丸の内に拠点を置いた米極東軍補給部のマイケル・リビスト少佐が参謀長宛てに提出し、結論部分で次のように記されていた。 「戦犯の遺体の最終処分では、英雄や受難者として崇拝される可能性を永久に排除すべきだ。米軍の監督下で火葬し、秘密裏に散骨すれば、この目的を達成できる」
東京裁判に先立つ1945年11月~46年10月、ナチス・ドイツの戦犯を裁いたニュルンベルク裁判にも触れていた。ナチス死刑囚が川に散骨された措置を踏まえ「戦犯の遺骨を秘密裏に処分する先例が確立された」と明記した。 これまで散骨の理由を巡っては、A級戦犯の処刑に立ち会ったGHQのシーボルト外交局長が著書「日本占領外交の回想」で「指導者たちの墓が将来、神聖視されることのないように、遺灰はまき散らすことになっていた」と記述していたが、公式な文書は見つかっていない。「参謀研究」により、散骨の理由に関する米軍の見解が公文書で初めて裏付けられた。 ▽米軍が懸念した日本の超国家主義の復活 米軍の「参謀研究」には、戦犯の遺体を巡る懸念が示されている。 「戦犯の遺体処分に関し、いかなる形であれ、日本で超国家主義的精神の復活に利用されることを永久に防ぐ」 米国は戦後間もない1945年9月に「初期対日方針」を公表。占領政策の目的について日本が再び脅威にならないようにするとし、具体策として超国家主義や軍国主義の除去などを掲げた。