統合失調症の姉と、彼女を自宅に閉じ込めた両親にカメラを向ける。ドキュメンタリー映画『どうすればよかったか?』解説レビュー
わたしたちの社会に問い掛けるもの
「どうすればよかったのか?」 棚上げしたまま気がついたら途方もない時間が経っていたというような問題は多かれ少なかれどの家庭にもある。第三者が見れば簡単に解決できそうな些末な問題も家族の中では一筋縄では行かなかったりする。機能不全に陥った一家の姿が「正論だけでは解決できないことが家族にはある」ことを。そして「正論だけが正解ではないことが家族にはある」ことを、後悔のひと言では片付けられない痛みとともにわたしたちに訴えてくる。 本作の撮影は知明さんが実家に帰省する一年おきに行われていた。シーンが変わるたびに表示される年代に、同じ時代を生きていた当時の自分を重ねる人も多いだろう。そして誰もがこう思う。「このとき出会っていれば、何かできたのではないだろうか」。わたしもそうだった。その後悔が、わたし自身の、そしてわたしたち自身の「どうすればよかったのか?」になっていく。 わたしたちは隣りの家で何が起きているかを知らない時代に生きている。すぐ隣りに自分たちだけでは解決できない問題を抱え、孤立している家族がいないとは言い切れない。「どうすればよかったのか?」がわたしたちの社会に問い掛けているものはとてつもなく大きい。 エンドロールが流れる薄暗い劇場の中で改めて考える。「どうすればよかったのか?」の前に「姉はどうしてほしかったのか?」を想像する。医療へのアクセスとともに社会との繋がりをほぼ絶たれたまま、両親と家の中で過ごした20余年は彼女にとってどんな時間だったのか、と。 藤野知明監督は様々なインタビューで「我が家は間違いなく失敗例」と語っているが、鑑賞したわたしたちにとっては「同じことを二度と繰り返してはいけない」と簡単には言い切れないほど、重いものを背負わされる1作である。 【著者プロフィール:青葉薫】 横須賀市秋谷在住のライター。全国の農家を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」が松竹系で『種まく旅人』としてシリーズ映画化。別名義で放送作家・脚本家・ラジオパーソナリティーとしても活動。執筆分野はエンタメ全般の他、農業・水産業、ローカル、子育て、環境問題など。地元自治体で児童福祉審議委員、都市計画審議委員、環境審議委員なども歴任している。
青葉薫