伝説の音楽番組『Austin City Limits』50年の歴史に触れる【オースティン音楽旅行記Vol.4】
最後の夜と帰国後に思うこと
The Moody Theaterでライブを観る前に、徒歩1分もかからない近場にあるLambert’sで腹ごしらえ。歴史的建造物を改装したテキサス・バーベキューの名店で、レンガ造りの壁に格式を感じる。2階にはウイスキーバーがあるほか、ここでも日によってライブ演奏が堪能できる。 前菜がわりのチーズ・ナチョスも濃厚な味に驚いたが、プレートに盛られた肉料理はバーベギューの概念が変わりそうなほど美味しい。スモークが効いたブリスケット(肩バラ肉)はジューシーで、こんな柔らかい肉を食べたのは初めてだ。ベイクドマカロニチーズも病みつきになる。量もすごくて胃袋が限界突破しそうになった。 この日の夜、The Moody Theaterに出演したのはキャット・パワー。ボブ・ディランによる1966年の伝説的コンサートを全曲再現した『Cat Power Sings Dylan』(ピーター・バラカンさんも「予想をはるかに超える傑作」と絶賛)のツアーで、1曲目の「She Belongs To Me」でソウルフルな歌声が聞こえだした瞬間、2024年のベストライブになると確信する。 ディランの偉業に敬意を表しつつ、キャット・パワーことショーン・マーシャルは自分の筆跡で感情豊かに名曲の数々を歌い上げていく。オリジナル同様、前半はアコースティックで途中からバンドが加わるわけだが、後者のアンサンブルもアメリカ音楽の旨みを凝縮したかのような素晴らしさ。ウィリー・ネルソンに「想定通りの音を奏でられる場所を手に入れた」と言わしめた会場のオーディオ設備も別格で、最高水準という謳い文句は伊達ではない。アメリカで過ごした最後の夜、本当にいいものを観た。 * 帰国後も旅の余韻に浸りつつ、ウィリー・ネルソンによる通算153作目(!)の最新アルバム『Last Leaf on the Tree』を聴きながらオースティンについて考えている。 「最後の一葉」というタイトルが示すとおり、本作は死と向き合った作品だ。「気づいてる? 誰もがいつかは死んでしまうことに」と歌うフレーミング・リップスの「Do You Realize??」を、現在91歳のウィリーが歌うことの意味は重い。それでもこのアルバムに軽やかさと希望めいたものを感じるのは、たとえ彼の肉体が滅んだとしても、魂はあの街でずっと生き続けるのだろうと思えるからだ。 オースティンはただ風通しがよくてユニークで面白かっただけでなく、これからの生き方を考えるヒントも与えてくれたような気がする。自分らしく自分のペースで生きること、自分とは異なる他人のあり方を想像して理解すること、音楽という架け橋と「Keep Weird」の精神を信じること。バーグストロム空港で見かけた「Live Music Capital of the World」のネオンを思い出しながら、そんなことを思った。 ※【オースティン音楽旅行記】は全4記事 その他の記事はRolling Stone Japanのウェブに掲載 ※取材協力:ブランドUSA、オースティン観光局
Toshiya Oguma