伝説の音楽番組『Austin City Limits』50年の歴史に触れる【オースティン音楽旅行記Vol.4】
最高の番組を撮るための、最高のスタジオ兼ヴェニュー
The Moody Theaterは、出演者も宿泊するW Austin Hotelを含めた複合施設の一画を占めている。四角い箱型の外観は、ミュージシャンがツアーで持ち運ぶトランクから着想を得たもの。まずは裏口から入って、キャパ350人の姉妹スペース3TENを見せてもらう。「大小両サイズのヴェニューを持つことで、あらゆる音楽をカバーできることを誇りに思っています」とEdさん。 続くThe Moody Theaterは、踏み入れた瞬間に声が漏れてしまった。「ステージから一番遠い席でも、距離でいうと77フィート(約23メートル)と比較的近いんです。私たちはこのヴェニューを、アーティストを近くに感じられるような場所にしようとデザインしました。なので、この会場にハズレの席はありません。どの席からもライブを楽しんでもらえるはずです」とEdさん。その言葉に偽りはなく、約1500席が設置されたバルコニーの一番端もベストスポットのように楽しめるだろう。この感覚は日本で味わったことがない。 1階アリーナは公演によって、シートとスタンディングを使い分けることが可能。こちらもステージとの距離感は申し分ない。この密接さはもちろん番組収録を念頭に置いたもので、TVショーでは旧スタジオからの慣習に則って木製のU字ステージを使用し、観客はその周りを囲むように立ち並ぶ。ステージの高さも若干低めになるそうで、それによってアーティストを真正面から撮影することができるという。 このような形で「スタジオ」と「ヴェニュー」を兼ねた例は珍しいだろう。ACLをTV収録するための施設はThe Moody Theater内に一通り揃っており、見学ツアーでは映像/オーディオ/照明のコントロール・ルームを覗くこともできる。4000万ドル(約61億円)もの建設費が投じられただけあって機器の充実ぶりは圧巻だ。
レガシーを受け継ぎ、新たな歴史を紡ぐ
さらに場内を歩いていこう。胸が熱くなったのはACLに45年近く貢献してきた専属フォトグラファー、Scott Newtonの写真を展示したKeller Pfluger Gallery,。 レイ・チャールズ、ジョニー・キャッシュ、ドリー・パートン、B.B.キングといった大御所に、番組を支えてきたカントリーの重鎮たち、フー・ファイターズ、レディオヘッド、ウィルコ、ノラ・ジョーンズ、ケンドリック・ラマーまで。番組のハイライトを飾ってきた歴代レジェンドの「奇跡の一枚」がずらりと飾られている。音楽ファンならいくらでも酒の肴にできそうな空間だ。個人的には、学生時代にACLのライブDVDを入手したデイヴィッド・バーンの写真が嬉しい。 番組恒例のインタビューシーン収録にも使われる楽屋や、制作スタッフが使うケータリングルーム、ウィリー・ネルソンが愛した喫煙所「Willie’s Place」からも出演者へのリスペクトが感じられる。楽屋近くの廊下にはロックの殿堂入り認定証が飾られてあり、出演者は歴史の積み重ねを実感してからステージに立つという。 ここに集う人たちは、みんな音楽とその歴史を愛しているのだろう。Edさんの語り口からもACLで働くことへの誇りと責任感が伝わってきた。 ちなみに、50周年の節目に見学ツアーは一新され、クイズコーナーを含むインタラクティブな展示、ドキュメンタリー映像、番組のセットを再現した記念写真スポットなどが新設されたばかり。筆者の訪問時はまだ準備中だったので、ぜひとも自分の目で確かめてみてほしい(※紹介動画はこちら)。