致死率20%の「人食いバクテリア」感染が倍増、何が起きているのか、米フロリダ州
なぜフロリダで増えている?
フロリダ州のメキシコ湾岸でビブリオ属菌の感染者が増えている主な原因は、人々が細菌のいる水に接触したことだ。 「洪水被害からの復興のために働く人々は、温かい水たまりに触れるおそれがあります。ビブリオ属菌は、こういう水たまりで繁殖しやすいのです」と、フロリダ西海岸の水路の安全と清潔を確保する任務を担うタンパ湾河口プログラムの副ディレクター、マヤ・バーク氏は語る。 ハリケーンによって大量の栄養分が水中に流れ込んだことも、ビブリオ菌の大繁殖につながった可能性もある。例えば、芝生から流れ出た農薬や、下水道管の破損により水路に流れ込んだ未処理の下水、肥料工場から出るリン酸石膏と呼ばれる廃棄物などだ。 バーク氏によると、ハリケーン後のタンパ湾のモニタリングによりビブリオ属菌が存在することが明らかになっている。だが、継続的なモニタリングは行っていないため、正確な数や種類はわからないという。 栄養分にさらされると急激に繁殖するビブリオ属菌は、人間の腸内や血流の中でも同じように繁殖する。米セントジュード小児研究病院でこの細菌の研究をしているサルバドール・アルマグロ・モレノ氏は、「ビブリオ属菌は地球上で最も急速に繁殖する生物の1つです。宿主の体内に入り、温かく栄養分の豊富な環境を見つけると、急速に増えます」と説明する。
感染経路やリスクの高い人は?
ビブリオ属菌はいくつかの経路で体内に侵入する可能性がある。危険な株が傷口から感染した場合は、皮膚が赤くなり、痛み、腫れ、変色し、膿が出て、最終的には黒く変色して壊死する。これが「人食いバクテリア」という呼び名の由来だ。 汚染された海水や魚介類を飲み込んだり食べたりすると、下痢、胃痛、嘔吐などの症状が現れる。細菌が血流に入ると、発熱、悪寒、血圧低下などの初期症状が現れる。 米疾病対策センター(CDC)によると、ビブリオ・バルニフィカスに感染した人の約20%が死亡し、感染からわずか1~2日で死に至ることもある。 致死率が高いのは、この細菌が急速に繁殖するからだ。アルマグロ・モレノ氏は、「日中に感染して就寝し、翌朝目覚めるときには敗血症になっている可能性があるのです」と言う。 「感染した場合は、すぐに行動しなければなりません」と、米マイアミ大学の微生物学者であるモハマド・モニルザマン氏は言う。早期に抗生物質を投与すれば、この疾患は効果的に治療できる。 傷口からの感染が重症化した場合には、組織の除去や手足の切断が必要になることもある。そのためモニルザマン氏は、まだ開いている傷口がある場合には沿岸の海水を避けるか、少なくとも防水パッチで覆うことを勧めている。 高齢者や、免疫機能が低下している人や、ある種の慢性疾患をもつ人にとっては特に危険だ。2024年7月に医学誌「The Lancet Planetary Health」に掲載されたレビュー論文によると、肝臓疾患のある人は、そうでない人に比べてビブリオ・バルニフィカス感染症による死亡リスクが200倍も高いという。