《ブラジル》記者コラム=日本人初アマゾン川遡行した冒険家=渋沢栄一やアインシュタインと親交も=小林美登利の桁外れな生き方
北米と比較してブラジルを「理想郷」と説く哲学
このように小林の書くものには常に北米との比較や関係が記され、グローバルな視点が透徹されているのが特徴だ。 「編集後記」から小林の哲学が散見される文章を抜き書きすれば、「私は初めからここに骨を埋める覚悟の許に渡伯し、子弟教育の重任をもって一生の使命と信じ一意専心その道を進んできた」(767頁)と生き方を振り返り、今後あるべき日系人の姿をこう記す。「今日その文化を誇る北米合衆国は従来の土人を滅亡せしめたばかりでなく、有色人種を排斥して白人種のみの文明を実現しているのですが、しかし来たらんとするブラジル文明の構成スケールはそれとは全く趣きを異にして、従来の土人と合体し有色人種を含む世界のあらゆる人種を網羅して人類史上かつてない新文明を創造せんとしているかに見受けられます。先般来伯された田中耕太郎博士が言われた様に『ブラジルはあらゆる人種民族が集合して各自の特長美点を発揮しつつ人類社会最大の交響楽を奏でる理想郷』と化するのではないかと思います。したがって我々の持っている美点特長はこれを棄てる必要がないどころか、ますますこれを発揮してこの交響楽にかつて見られぬ妙音を加え、これを更に崇高偉大な音楽団となすことが、我々の使命ではないかと思います」(同)と高らかに説いている。 この文章が66年前、1958年に書かれていることに感動を覚える。ある意味、実際にその通りになって来た部分を感じる。もちろん〝人類社会最大の交響楽〟には程遠いが、少しずつだが近づいていると言えないだろうか。来年は聖州義塾開設100周年、何か記念行事があってもいい。(一部敬称略、深)
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