なぜヤクルト村上の3打席連続本塁打が生まれたのか…虎の配球ミスを見逃さない“読みの力”と4番のプライド
一死走者無しから村上は、阪神の守護神の岩崎がインハイに投じた初球の141キロストレートを思い切り引っ張った。強く吹く甲子園特有の浜風。快音を残し、角度のついた打球は、その逆風に押し戻されることなくライトスタンドの最前列に落下したのである。 高代氏は、「浜風を切り裂いてライトスタンドへ放り込むライナー性の打球は見るが、あの角度で入るホームランは初めて見た」と驚き、ある阪神の大物OBは、「バースでさえ、あの角度では、なかなか入らなかった。つまり打球が浮力を失ったところで風で戻されるわけだが、村上の打球は浮力を失った時点で、もうスタンドの上まできていたんだろう」と、阪神の“レジェンド“ランディ・バース超えの一発であったことを証言した。 村上は、このホームランをこう振り返った。 「前の打席にスライダーをレフト方向に打っていたので、勝負してくるな、インコースで来るなと思っていた。この浜風なので、しっかり打たないと入らないと思っていた。しっかり打てて入ったのでいいスイングができた」 やはり渡邉の外角スライダ―からつながっていたのである。 高代氏がこう分析した。 「配球で防げたホームランだった。浜風を計算したのかもしれないが、村上の読み通りにインコースを攻めるのは、愚の骨頂。あのボールは渡邉が使わねばならなかったボールで7回と9回の配球が逆だ。配球の読み合いで後手、後手を踏むとこういう結果を招く」 相手のミスを見逃さない鋭い洞察力。村上の“読みの力”である。 そして燕党が“村神”と崇める“村神劇場”のクライマックスが延長11回に待っていた。 一死から青木が梅野のキャッチングミスによる振り逃げで出塁すると、高津監督は続く途中出場の奥村にバントで送らせなかった。一塁を空けると村上が歩かされる可能性があるためのセオリー。阪神ベンチは申告敬遠を選ばず、7番手の石井に勝負させたが、警戒するあまりボールが2つ先行した。 高代氏は、「次のバッターも途中出場の渡邉であることを考えると、2-0となったところで申告敬遠で良かった。ストライクは絶対に投げてはいけない場面だったが、なぜか真ん中高めのストライクゾーンにナックルカープ。村上は、ふわふわと飛んでいる蝶々をつかまえる感じでバットを出したのではないか。ここはバッテリーの配球ミスというよりもベンチの指示ミスだろう」と付け加えた。 高めに浮いてきたナックルカーブを村上が、しっかりと引き付けてフルスイングすると打球は逆方向へグングン伸びてレフトスタンドへと飛び込んだ。 村上は、この決勝の37号2ランを「狙っていなかった」という。 「甘く来た球をしっかりスイングする意識はあった」 村上にとって、そのボールは、高代氏が表現するような、つかまえて下さいとヒラヒラと舞い込んできた蝶々だったのかもしれない。