なぜ公立進学校の相模原が高校野球の激戦区神奈川で8強進出を果たしたのか?
「高目の胸のあたりのストレートは失投ですから、それをレベルスイングで打てるようにならないと私学には打ち勝てない。中学生はローボールヒッターが多く、逆に高目の速いボールが苦手なんですね。ポイントは振り出すときに両ひじが下を向いていること。そうしないとバットのヘッドが立たないので」 理論の一端をこう明かしてくれたことがある佐相監督は、推薦入学やスポーツクラスが存在せず、グラウンドは陸上部などとの共用、部員全員での朝練も原則禁止で、午後7時には完全下校となる文武両道の校訓下で、創意工夫を凝らしながらチームの実力アップを図ってきた。 たとえば「パワーロープ」と呼ばれる練習では直径10センチ弱、長さ9メートルの重い綱の両端を握り、上下左右に振ることで体幹や腕力を鍛える。重さ10キロのハンマーでタイヤを叩くことで手首を強化し、水を満たした18リットルのポリタンクを抱えながら、斜度5度のグラウンド脇のスロープを上り下りすることで上半身と下半身をたくましく変貌させてきた。 ひと冬の厳しいトレーニングと佐相監督の理論で、覚醒した代表格と言えるのが先発メンバーで唯一の2年生となる3番の温品直翔(ぬくしな・なおと)二塁手となる。5試合でランニング弾を含めた4本塁打を放ち、東海大相模の大田泰示(日本ハム)、横浜の増田珠(ソフトバンク)がもつ大会最多記録まであと1本に迫っている。 今大会が始まる前まで、練習試合を含めて4本塁打だった温品のサイズは身長164センチ体重62キロ。決して大柄ではないものの、インコースを含めた高目のボールが打てなかった課題を克服した理由を、バッティングフォームが固まったことに帰結させる。 「佐相先生からは『トップが入りすぎている』と言われることが多かったので。グラウンドに置かれている大きな鏡の前で、自分のトップの位置を確かめてから素振りをして、ティー打撃やバッティング練習に入ることで、インコース打ちを含めた自分の弱点を克服しました。バットもリングをつけた1.2キロくらいの重いものを最初に振って、その後に普通のバットと細い軽めのバットを使い、重量差などを利用してスイングスピードを上げることにも役立てています」 中学時代は平塚ボーイズでプレーしていた温品は佐相監督の指導に憧れ、自身の課題でもあったバッティングを磨き上げようと県立相模原への入学を決意。茅ヶ崎市内から片道1時間半をかけて登校する日々にも「自分が選んだ道なので苦じゃありません」と目を輝かせる。