ロニー・クインタレッリが明かす、スーパーGTから退く理由。4度の王者が初めてぶち当たったパフォーマンスの壁「ショックだった」
2024年シーズンをもって、スーパーGTから退くことを決断したロニー・クインタレッリ。彼にとってのラストレースとなる鈴鹿戦を前に会見が実施され、思いの丈を語った。 【ギャラリー】人が……乗ってないだと!? スーパーフォーミュラを使った自律走行レース『A2RL』が鈴鹿でテスト 2011年、2012年にMOLAで、2014年、2015年にはNISMOでGT500クラスのチャンピオンに輝き、史上最多の4度のタイトル獲得を誇るクインタレッリ。日本でのレースキャリアも20年を超えたが、今も日本のレース界を代表するドライバーのひとりとして君臨している。 そんなクインタレッリだが、45歳を迎えた今シーズンをもってスーパーGTの活動を終了することを決断。チーム移籍やGT300クラスへの転向をすることなく、日産ワークスチームのエースカーである23号車のドライバーのまま華々しくスーパーGT引退の時を迎える。 「今シーズンは成績の方でなかなかメディアから注目されなくて、注目されるために何をやればいいかなと考えたところ、やっぱり引退しかないなと。大成功でした(笑)」と冒頭からジョークで会見場を和ませたクインタレッリ。引退を決断した理由について尋ねられると、今シーズン人知れず重ねていた苦労について明かした。 2024年はクインタレッリにとって変化の年となった。NISMO所属で23号車のドライバーを務めるという点には変わりないが、チームメイトには僚機の3号車でタイトル争いを演じて評価を急上昇させていた千代勝正が加わり、クインタレッリはNISMOで加入以来初めて「セカンドドライバー(本人談)」という立場に。タイヤもこれまで数多の成功を共に収めてきたミシュランからブリヂストンに変わった。 そんな中でクインタレッリは、パフォーマンスで苦しむ場面が多くなった。これは本人にとってもかつてなかったような感覚であり、非常にショックだったという。 「千代選手は速さに加えてとにかくモチベーションがすごくて。僕はいつも周りからモチベーションが高いと言われてきましたが、今年に関しては逆に僕の方が足りないと感じるほどでした」 「これは今でも理由は分かりませんが……今までは『ロニーが乗ったらいつもプラスになる』という感じで、期待に応えてこれました。昨年も最後までパフォーマンスを出すことができましたが、今年はクルマに乗る時にマイナスばかりになってしまいました」 「なるべく見せないようにしていたのですが、僕の中ではすごく悔しい場面がありました。それが1回や2回ならいいのですが、今年は100点満点なら毎回40点、50点だと自分自身で評価していました」 クインタレッリはそう語る。第3戦と第4戦までのインターバルには地元イタリアに帰りリフレッシュ。千代もイタリアに渡り、そこでタイトル獲得に向けてふたりで決意を新たにしたという。しかし迎えた第4戦富士では、「今シーズンで一番ダメなパフォーマンス」。そこから彼は自身の引き際を意識するようになり、パフォーマンスで足を引っ張りチームに迷惑をかけたり、ファンに格好悪い姿を見せたりしたくない、そういった思いで決断に至ったと語った。 「今まで通りプッシュしても、速さに繋がらない。僕の中でショックでしたし、『これはダメだな』と。これはチームにも大迷惑なので、スーパーGTの活動終了を考えるようになりました。完全に決めたのは(第8戦)もてぎの後です」 「(第7戦)オートポリスも微妙なパフォーマンスでした。不運もあったのですが、数年前であれば1位を取りに行けるパフォーマンスを出せたのだと思いますが、力不足で2位になりました。もてぎ戦で表彰台に乗ればタイトル争いに残るチャンスがあったのですが、結局もてぎではNISMOエースカーがチャンピオン争いから脱落してしまった。それで責任をとって降りますと(伝えた)。NISMOもそれを尊重してくれました」 「NISMOと今シーズンに向けて契約を更新する時にも、スーパーGTのキャリアを23号車で終えたいと伝えていました。それに30代後半なら、サテライトチームに移籍したかもしれませんが、45歳でサテライトチームに行って、パフォーマンスがさらに悪くなってしまうと迷惑もかかるし、ファンにも格好良いロニーを見せられなくなると思いました」 引退を決断した当初はショックで寝られないほどだったと明かすクインタレッリ。しかし周囲のドライバーやファンからたくさんのメッセージを受け取ったことで、乗り越えることができたという。来たるラストレースに向けては「どんな感情になるか分からない」と笑顔を見せた。 また、スーパーGTから卒業した来シーズン以降のことはまだ何も決めていないようだが、レース活動を何らかの形で続けることには意欲を見せている。これまでGT500でパフォーマンスを発揮するためにハードワークで身体を鍛えてきただけに、「1年後にみんなから『あれ、どうしたの? なんでそんなにお腹が出てるの』と言われそうなので(笑)。もう少し気が楽なレースに、機会があれば出ると思います」とした。
戎井健一郎