「多重下請け」によるしわ寄せをどう改善する?――2024年問題を前に上がる中小物流企業の悲鳴 #令和の人権
ひと口に物流と言っても、業界内では「積んでいる荷物が違えば異業種だ」と言われるほど、その仕事は多岐にわたる。資材を工場へと運ぶ長距離のtoB、物流センターへと商品を運ぶtoB、各小売店へと運ぶtoB、消費者へと直接届けるtoCなどさまざまである。 なかでもしわ寄せがいきやすいのは、大量の荷物を長距離運ぶtoBのドライバーたち。荷主と運送業者という上下関係が、これまでさまざまな労働上の理不尽を常態化させてきたからだ。
「サービス」として始まった、付帯作業の常態化
橋本さんは、自身もかつてトラックドライバーとして輸送業務をこなしていた。現在はトラックドライバーや物流企業の取材を重ねる。 「現在のトラックドライバーの仕事は、トラックに積み込んだ荷物を安全に運ぶことだけではありません」と橋本さん。倉庫や店舗へ到着した際に、荷物を積み下ろしする「荷役」も、ドライバーの付帯作業として求められるという。 こうした作業は元来、サービスとして行われていたと橋本さんは語る。 「事業参入に関する最低車両台数の引き下げや免許制から許可制への見直しなど、90年代に起きたいくつもの規制緩和をきっかけに、物流を担う事業者が増えました。そこで競合他社との差別化をはかるために始まったのが、ドライバーによる『付帯作業』でした。それが今でも続いていて、営業力の弱い中小物流企業にとっては『唯一の営業手段』のようになってしまった」 慣例として続く付帯作業を現場のドライバーたちはどう受け止めているのか。前出の麻生さんはこう言う。
「長距離輸送の業界では、運転時間が『休憩時間』だと言われるくらい、荷役の作業時間が長く、ハードです。トラックドライバーの疾病のうち一番多いのが腰痛ですが、体への負荷の大きい積み下ろし作業が原因だと思っています」 橋本さんは、トラックドライバーの高齢化も懸念している。 「総務省の『労働力調査』(2023年10月発表分)によると、道路貨物運送業で働く方々のうち、50代以上が全体の48.9%をしめています。高齢化しているトラックドライバーの方々が、運転後に積み下ろしの労働まで強いられている」 長距離輸送で疲れた体を、さらに酷使する「荷役」作業。基本的に単独で行動するトラックドライバーにすべて任せるのではなく、積み下ろしを荷主側の業務として切り分け、複数名で作業するなど、改善策はある。 「大手物流企業など、まだまだ荷役をはじめとする付帯作業を請け負っている企業が多いです。荷主さんに『大手さんはやってくれるのに……』という交渉の材料を与えるので、あまりよい傾向とは言えないと思います」と麻生さん。 さらに、ここに多重下請け構造の弊害があると麻生さんは語る。 「下請け(二次請け)が仕事を受けるとき、『ここまでやりますよ』と付帯作業を増やして、三次請けに仕事を流すこともある。付帯作業は書面化されていないことも多いですから、そうしたことが起きても世間には伝わらないんです」 トラックドライバーが働きやすい労働環境をつくるためには、荷主側・物流企業側それぞれの意識変革が求められている。 一方で、トラックドライバーが荷主を選べれば、労働環境改善への希望も見えてくるだろうと麻生さんは語る。 「今は業界全体でリソースが足りていません。荷主から仕事を受けるのは大手企業ですが、実際に多くの仕事を担う中小の物流企業にとっては、トラックドライバーが引っ張りだこの状態。ある程度は仕事を選ぶことも可能になってきています」