羽根田卓也が5度目の挑戦にかける思い。東京五輪で区切りをつけた「自分にとってのオリンピック」とは?
強豪国スロバキアで得た成功体験が、どんな困難も乗り越える「自信」に
――羽根田選手は高校卒業後にカヌー強豪国のスロバキアに拠点を移して10年間鍛錬を積まれましたが、最も自分の財産になっていると感じるのはどのようなことですか? 羽根田:スロバキアと日本のカヌーの強化の環境はまったく違っていて、その中で得られるスキルや技術も大きく違います。その中で一つ挙げるなら、どんな困難に対しても、「何とかなる」とか「やれないことはない」という、根拠のない自信を持てるようになったことだと思います。スロバキアに行ってから、大なり小なり乗り越えなければならないことが数多くありました。言葉の問題やコミュニケーション、大学や大学院、ビザの手続きなども大変だったんですが、基本的には一人で解決しなければならなかったので。その日々の中で、一つ一つ乗り越えて成功体験を積み重ねることで、他のことに対しても自信を持てるようになったんです。 それは大きな糧になっていて、新しい一歩を踏み出す時に根拠や確証がなくても「うまくいきそうだからやってみよう」「自分はこれだけのことを乗り越えてきたから、きっとうまくいく」と信じてやり続けることができる。その結果がメダルにもつながったと思います。 ――厳しい環境に身を置く中で、競技以外の面でも成功体験を積み重ねていったのですね。今はどのような環境でトレーニングされているのですか? 羽根田:今は東京五輪のレガシーとして残っている「カヌー・スラロームセンター」を拠点にトレーニングをしています。現在はオフシーズンで陸上トレーニングがメインなのですが、2月からオーストラリアの合宿に行って、3月にパリに行って、そこから東京に拠点を戻してシーズンインという形になります。 ――スキルアップの面で今後、日本がカヌー強豪国になるためには環境面でもスロバキアのような強豪国を見習うべきなのか、あるいは「日本流」で競技力を伸ばしていける部分もあるのでしょうか? 羽根田:日本が持っている知見や科学は他の諸外国に比べても秀でている部分があるのですが、カヌー競技においては、環境の部分でまだまだヨーロッパに追いついてないところがあります。まず本質的な部分で環境を整えていく過程を踏むことが大切だと思います。 ――カヌー・スラロームセンターをはじめ、各地で小中学生を対象とした大会やカヌーの体験イベントなどを実施されていますが、競技を始める入り口の部分の環境は整っているんですよね。 羽根田:そうですね。カヌー・スラロームセンターは我々の選手強化にもすごく役立っていますし、次世代のジュニアの強化だけではなく、ラフティングとかサップなど、地域に密着するようなアクティビティができたり、水難事故の消防訓練といった活用のされ方もされています。カヌー体験や大会を通して選手を目指してくれればもちろん嬉しいですけど、それだけに限らず、気軽にカヌーに触れて楽しさを知っていただけたら嬉しいですね。 ――将来は、指導者の道も視野に入れているのですか? 羽根田:選択肢には入れていますが、先のことはまだ決めていないです。大会後の自分の気持ちと向き合って、周りの人たちと話もしながら決めたいと思っています。