羽根田卓也が5度目の挑戦にかける思い。東京五輪で区切りをつけた「自分にとってのオリンピック」とは?
茶道を通じて学んだ「没頭する時間」の大切さ
――トレーニング以外の取り組みについても伺いたいのですが、趣味の一つである茶道は定期的にやっているのですか? 羽根田:はい。茶道そのものの素晴らしさもあるのですが、僕は茶道を通して没頭する時間をいただいた気がしています。東京五輪が延期になった際、自分の日々の目標が定まらなかったタイミングで茶道と出会ったのですが、モヤモヤしたことから一旦離れて、一つのことに没頭する時間を作ってくれたのが茶道でした。そういった意味では、直接競技に役立っているというよりも、茶道を通して没頭する時間の大切さを感じています。 ――一つ一つの動作を丁寧にすることが集中力を高めることにもつながりそうですね。 羽根田:そうですね。日々あれこれ考えている悩み事から一回離れて目の前のことに集中するっていうのは何事においてもすごく大事なことだと思います。オリンピックのようにプレッシャーがかかる時って、試合当日とか試合前にあれこれ考えちゃうんです。まず、最初に過去の後悔が浮かんできます。「しっかりトレーニングできていたかな」とか、「何か悪いことをして、そのバチが今日当たらないかな」とか(笑)。 その次に考えるのは未来への不安です。これは仕事でも同じだと思いますが、大事な局面で、「失敗したらどうなるんだろう」とか、「今まで積み重ねてきたものが全部台無しになって……」といったことを考え始めると、本当に人間はキリがないぐらいのところまでいってしまいますから。それはパフォーマンスにも日常生活にも影響するので、それが一番危ないと思います。いざ本番になったら、過去も未来もどうしようもない。でも、今自分が手を動かしてカヌーを漕ぐ瞬間だけはどうにかできるから、「目の前の“今”に集中しよう」ということを、普段から意識して過ごすようにしています。 ――「考えすぎない」ことも大切なスキルなのですね。 羽根田:そうですね。日常生活も同じで、目の前の仕事を一生懸命取り組んだり、やっていることに没頭して、そこに楽しみややりがいを見出すことがすごく大事だと思っているので。茶道を通じて過去や未来を忘れて「今」に没頭して楽しむことを大切にしています。 ※インタビュー後編は2月5日(月)に公開予定。「学ぶことで人生が豊かになる」ことを体現してきたキャリアを、本人の言葉から紐解きます <了>
[PROFILE] 羽根田卓也(はねだ・たくや) 1987年生まれ、愛知県豊田市出身。ミキハウス所属。父と兄の影響で9歳の時にカヌーを始め、高校卒業後に単身、カヌー・スラロームの強豪国であるスロバキアへ渡り、同国を拠点として10年に渡り活動。オリンピックは2008年北京大会で初出場し、ロンドン大会では7位入賞。リオリオデジャネイロ大会ではアジア初となる銅メダルを獲得し、東京五輪では10位。昨年10月に行われたアジア大会で優勝してパリ五輪出場権を獲得し、5大会連続のオリンピック出場を決めた。
インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]