栗山英樹が振り返った日本ハム監督就任1年目 指導者経験のない指揮官はなぜ優勝できたのか?
──2012年のパ・リーグを制したファイターズはクライマックスシリーズファイナルで福岡ソフトバンクホークスに全勝して日本シリーズ進出を決めた。そして、原辰徳監督率いる読売ジャイアンツと日本一をかけて戦い、2勝4敗で敗れた。 * * * 日本シリーズが終わった頃はもうヘトヘトで、疲労困憊でした。「やれることは全部やり切った」という思いはありました。ただ、あの1年にはもう二度と戻りたくない。そんなシーズンでした。 優勝がこんなにもしんどいものだとは思いませんでした。もし負けていたらどうなっていたのか......体を壊していたかもしれない。チームには好不調の波があって、どんなに懸命に戦っても「勝てそうにない」という感じになってしまう時があります。連敗している時、エレベーターに乗り合わせた杉谷拳士選手に「監督、笑ってください」と言われて、「俺、そんなにひどい顔してる?」と聞いたことがあります。負けが込んでしまうと、笑っていてはファンに対して失礼かなと思ってもいました。 監督として初めてのシーズンだから、「誰も期待してないだろう」という気持ちもあり、「結果は気にせず思い切って戦おう」と思いながらも、どうしても結果にとらわれる。何が正しいかがわからない中で、試行錯誤を繰り返しました。 プロ野球も変化していますが、10年くらい前までは、選手として実績のない人が監督になることは少なかった。ましてや私には指導者としての経験がまったくありませんでしたから、私のようなタイプが監督になる可能性は限りなく低かった。 にもかかわらず、監督1年目に優勝することができた。不可能だと思われていても、覆すことはできる。それを自分自身、感じることができたシーズンだったと思います。 栗山英樹(くりやま・ひでき)/1961年生まれ。東京都出身。創価高、東京学芸大学を経て、84年にドラフト外で内野手としてヤクルトに入団。89年にはゴールデングラブ賞を獲得するなど活躍したが、1990年にケガや病気が重なり引退。引退後は野球解説者、スポーツジャーナリストに転身した。2011年11月、日本ハムの監督に就任。翌年、監督1年目でパ・リーグ制覇。2016年には2度目のリーグ制覇、そして日本一に導いた。2021年まで日ハムの監督を10年務めた後、2022年から日本代表監督に就任。2023年3月のWBCでは、決勝で米国を破り世界一に輝いた
元永知宏●文 text by Motonaga Tomohiro