求む!路面電車とバスの「二刀流」運転士 人手不足を打開する両備グループの人事戦略
こうした状況の中、両備グループはコロナ禍が沈静化してきた昨年夏に思い切った手に打って出た。タクシーやバス、物流、路面電車、フェリーなどを有する「トランスポーテーション&トラベル部門」が一括で200人を募集する「宇宙一本気(マジ)な乗務社員採用プロジェクト」だ。
「稼げる、働きやすい、誇れる」を掲げ、岡山県内の他業種の平均給与を上回る平均給与への待遇改善、現場の要望をふまえた労働環境の改善などを同時に進めた。
その結果、目標を上回る216人を採用することができた。10~40歳代が約6割を占め、約8割は未経験者。入社後に会社負担で必要な免許を取得。入社後のヒアリングでも満足度が高いとの声が多く寄せられている。
両備グループの大上真司バス・鉄軌道ユニット長は「業界内で取り合ったわけではない。業界外から8割というのは予想以上の成果。潜在的にプロドライバーへの憧れを持つ人を掘り起こせた」と分析する。一方、女性比率は10%未満にとどまり、課題も残った。
■将来は四刀流も
モチベーションアップのため、運転士デビュー期間には家族の乗車体験会を実施。来年4月には家族乗車証支給制度を新設し、乗務社員の家族に会社のファンになってもらう仕組みを導入する。
小嶋社長はこれらの取り組みの狙いについて、「プロドライバーが誇りの持てる仕事であるという認知を定着させることで、結果的に人員不足を解消し、公共交通ネットワークの維持、拡大につながる」と説明する。
採用プロジェクトの成功は注目を集め、30以上のバス会社や自治体から問い合わせがあり、視察に訪れたり、役員が講演に招かれたりするなど、大きな反響を呼んだ。
「他業種並みの待遇を用意し、的確なプロモーションを行った。やるべきことをやれば人材を確保できる」と手応えを語る大上ユニット長。乗務員が充足したことで勤務ローテションに余裕ができ、増便の実現という成果にもつながった。
「今後100年間続けられる運輸交通サービスの基盤を築く」ことを目的に、今年11月から来年10月の1年間で200人採用計画を継続。年齢や性別の構成比改善を図るのが目的で、二刀流運転士の募集はその一環だ。
大上ユニット長は「多様な働き方ができる両備グループへの最初のステップ。将来的には三刀流、四刀流に踏み込んでいく」と話している。(和田基宏)