年間200万人がアルコール依存を治療―依存者にセカンドチャンス与える米国
国民的人気アイドルグループTOKIOのメンバーだった山口達也さんが女子高校生へのわいせつな行為をした疑いで書類送検されたことが原因となって芸能界を引退し、1カ月が経ちました。事件が起きた要因として取りざたされたのが山口さんのアルコール依存症です。 アルコールや薬物への依存に対し、早くから社会全体で取り組んできた米国では現在、どのようにこの問題と向き合っているのでしょうか。 ニューヨーク・ブルックリン在住のライター金子毎子さんの報告です。
いっぽう依存症大国の米国は?
人気グループTOKIOのメンバーだった山口達也さんが強制わいせつ容疑で起訴猶予処分となった事件をきっかけに、アルコール依存症に関するトピックがメディアで注目されています。もちろんアルコール依存症自体は最近新たに日本で深刻化した社会現象、というわけではありません。 厚生労働省によると、少し古い実態調査になりますが、2003年にアルコール依存症の疑いがあるとされた人は440万人、治療が必要なレベルの人は80万人と推計されています。この数を多いと見るか、少ないと見るかは個人の感覚によるところです。が、少なくとも決してめずらしい病気ではないということはわかります。たとえば年々増える傾向にあるうつ病ですが、2002年の時点では71.1万人(ただし2008年には104.1万人まで増)でした。 いっぽう米国が「依存症大国」なのは誰もが知るところです。イメージとしてまず思い浮かぶのは「ドラッグ」への依存でしょうか。おりしも「オピオイド危機」、オピオイド系鎮痛剤の乱用に端を発した薬物依存問題が米社会を大きく揺るがしている最中です。 処方箋の鎮痛剤をきっかけにして、最終的には違法に流通している合成オピオイド「フェンタニル」や安価なヘロインにまで手を出す人たちも後をたちません。米疾病予防管理センター(CDC)によると、薬物の過剰摂取で2016年に死亡した米国人は6万4000人。この数字が発表された1カ月前の昨年10月にはトランプ大統領が公衆衛生の非常事態を宣言しています。 郊外の中流層にまで問題が及んでいるのが、これまでと少し異なる点で、「ドラッグは人種も年齢も社会的地位も経済状態も選ばない」と警鐘が鳴らされています。 そんなの当たり前じゃないかと思うかもしれませんが、米国ではこれまでドラッグが人種や住む場所をしっかり選んでいたのです。たとえば、70年代にベトナム戦争の退役軍人を中心としたヘロインの使用が急増したこと、80年代にクラック・コカインが主に都市部の貧困層の間で大流行したことなどは、いずれも郊外の中流家庭にはほとんど関係のない話でした。 それがここにきて、とりわけ若い白人層の間で過剰摂取による死亡率が高くなり、薬物問題が「もはやマイノリティだけの他人事ではなくなった」状態です。