映画『十一人の賊軍』のコラボビール十一本を飲む(其の四)
注いだ瞬間にマスカットの香りが強く漂ってきた。「苦味はビールだけど、これも目隠しして飲んだら『マスカットサワー』と思う人がいそう。柔軟に攻めていますね」と須藤さん。その時、大きな影がやってきて空いたビール瓶に止まった。大きなスズメバチだった。「鈴木さん、写真を撮って!」。須藤さんに促されたが、スマホをカメラモードにしているうちに飛び去ってしまった。
「ふんだんに使っているマスカット果汁の甘い香りに誘われてやってきたんでしょう。紋切り型は嫌いだけど、二枚目といえば甘いマスク。だから『二枚目のマスカットエール』なんでしょうね」
⑥辻斬のベルジャンホワイト
「辻斬を演じている小柳亮太って、元関取の豊山さんなんだ!」。大相撲の専門誌で記者をしていたこともある須藤さんだけに、前頭筆頭までいった力士が「人知れず引退して俳優をしているとは…」と驚いている。
コップに注ぐとおろしやのホワイトエールのようにとろりとしているが、おろしやのような藤の花のような泡はない。コリアンダーやオレンジピールを入れているからか、ベルギービールの「ヒューガルデン・ホワイト」に近い飲み口だ。
「エネルギーに満ちた味ですね」と須藤さん。「辻斬は、大人数の村人を無差別に殺害した大悪党ですか。自分のエネルギーと折り合いがつかなかったからそうなったんでしょうね」。残念ながら、なぜベルジャンホワイトが辻斬なのかは結論が出なかった。
⑦なつのピーチサワーエール
逆にこちらは、11人の中でただ一人の女性だからこそ「ピーチサワーエール」なのだろう。多様性の時代だけにひんしゅくを買いそうだが、桃やピンクは女性をイメージさせるからだ。
一口飲んだ須藤さんは「マスカットより筋が通っていますね。酸味があるのも好みで、インパクトがあります。紅一点でインパクトがなかったら駄目。紅一点にピーチエールは合点がいきます」。そう言ってうなずきながら飲んでいた。飲むほどに桃の味わいが強くなっていく。そういえば鞘師里保が演じるなつも、戦火を生き延びるたびにどんどん強くなっていったっけ。