「ザイム真理教」と呼ばれても…エリート官僚たちが国民の目の敵になってまで「増税」を続ける「隠されたワケ」
「終わりのない成長を目指し続ける資本主義体制はもう限界ではないか」 そんな思いを世界中の人々が抱えるなか、現実問題として地球温暖化が「資本主義など唯一永続可能な経済体制足りえない」ことを残酷なまでに示している。しかしその一方で、現状を追認するでも諦観を示すでもなく、夢物語でない現実に即したビジョンを示せる論者はいまだに現れない。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 本連載では「新自由主義の権化」に経済学を学び、20年以上経済のリアルを追いかけてきた記者が、海外の著名なパイオニアたちと共に資本主義の「教義」を問い直した『世界の賢人と語る「資本主義の先」』(井手壮平著)より抜粋して、「現実的な方策」をお届けする。 『世界の賢人と語る「資本主義の先」』連載第20回 『「遊ぶだけの大学生にお金を出す必要は無い!」 大学教育無償化に反対する人を一蹴する「衝撃の抜け道」』より続く
「ザイム真理教」と呼ばれても
財政の在り方を巡っては、借金(国債発行)を極力抑え、身の丈に合った暮らし(=税収の範囲内での政府支出)を目指すべきなのか、それとも、財政赤字を許容してでも、将来のための投資や景気の下支えに使うべきなのかという論争が長らく日本でも海外でも続いてきた。 財政再建派や緊縮財政派などと呼ばれる前者の主張は大体こうだ。歳出を削減して困る人がいたとしても、借金頼みの財政を続けていれば、いずれ金融市場の信頼を失う。 これまで日本国債を買ってくれていた銀行などが、借金を返済する日本政府の意思や能力を疑い始めれば、われ先にと国債を投げ売りし、政府が借金する際の金利が高騰、財政危機になるか、円が売られて通貨危機になるか、あるいはその両方が起きる。株価も下がるし、円の急激な減価を通じて悪性のインフレも起きるだろう。
トップエリートが信じる「教義」
そうなったときの国民生活への影響は甚大で、多少の痛みを伴ってでもその前に歳出を削減し、増税などで歳入を増やす努力を進めなければならない。財政危機がいつ来るのかはわからないが、目先の痛みを恐れたり、次の選挙で当選することしか考えていない政治家の圧力に屈したりして放漫財政を続けてはならず、将来世代のために財政健全化を進めることこそが責任ある行動である。 政府内で財政を直接預かる財務省の官僚はほぼ一人残らずこの立場だ。そこにほとんどの主流派経済学者やエコノミストも、そして新聞やテレビの大手メディアもおよそ例外なく同調してきた。 正直に言えば、私もその一人だ。長年財務省を取材してきた実感として、日本のトップエリートとされてきた彼らは、鼻持ちならないほどプライドが高いことはあっても、私心を持って仕事をしていると感じたことはほとんどない。 彼らは「ザイム真理教」などと揶揄され、増税を試みて多くの国民の目の敵にされながらも、まさにその国民の生活や未来を守るためと信じ、それこそ殉教者的なひたむきさで職務に向き合っている。 こう書くとあまりに単純だが、彼らほど(少なくとも偏差値的な尺度では)優秀な人たちが真剣に信じている「教義」ならば、恐らく正しいのではないか――これが私の出発点だった。もちろん、日米開戦を決めた戦前の軍部も当時の日本ではトップエリートだったわけだが。
井手 壮平