「馬鹿野郎!」罵声が日常の9年半で得た深い学び 伝説の落語家「立川談志」に最も怒られた弟子
「師匠には、1万回以上怒られました。『バカ野郎!』なんて、ほとんどあいさつ代わりでした」 そう話すのが、伝説の落語家・立川談志の弟子であり、現・立川流真打の立川談慶氏だ。前座という修業期間を「9年半」という異例の長期間すごした談慶氏は、こう語っている。 「私を含めて弟子たちは、狂気としか思えないほどの『気づかい』を要求され続けていました。でも、その結果得た果実を手中に収めることができたのは、談志ではなく、弟子である私たちだったのです」 【書籍】警告!本書には過激な「罵倒の言葉」が含まれます。罵倒された本人である筆者が「最終的には」感謝している事実に鑑み、SNSなどで炎上させるのはご遠慮ください。
落語界の師匠と弟子という、普段私たちが垣間見ることのできない世界。その伝統の中で培われてきた「気づかいの本質」を描いた書籍『狂気の気づかい: 伝説の落語家・立川談志に最も怒られた弟子が教わった大切なこと』が上梓された。 ここでは、その「はじめに」を一部編集のうえ、全文掲載する。 ■「そこまでやる」にはワケがある 「え、そこまでやるんですか……?」 落語家・立川談志に対する私たち弟子の「気づかい」を話すと、多くの方がそんな反応をします。
電話1本で呼び出されたら、夜中の2時でも駆けつける。 居場所を告げずに「いますぐ来い」と言われたら、場所を推理して探し出す。 家事・身のまわりの世話は、言われたらすべて行う。もちろん給料はゼロ。 「馬鹿野郎!」には、自分が悪くなくても「すみません!」。 新年会は数十人の弟子全員が、談志1人の顔色をうかがうことに終始。 たしかに、異常です。いまだったら絶対に許されない「○○ハラ」のオンパレード。 私自身、慶應義塾大学を出て東証一部上場企業のサラリーマンを3年ほど勤めた後に弟子入りしたものですから、この「異常さ」には心底、戸惑ったものでした。
でも。 いまから思い返すと、弟子たちの「気づかい」の中には、私たち日本人が忘れてしまった、何か大切なものがあったように思うのです。 人間関係が希薄化し、会社の隣の席の人ともチャットで話す現代。そんな時代において、あの厳格で濃密な「人間関係」のあり方は、いまはもう決して観察することのできない、ある種の「遺産」なのではないか。 もしもそうなら、談志への「狂気の気づかい」の記録を書き残しておくのも悪くないのかもしれない。