国民の苦悩を自分のものとせよ…警察の祖・川路大警視語録は警官のあるべき姿を示す 大組織ほど統制に欠かせぬ倫理観 内輪の論理で鹿児島県警は、県民感覚を取り戻せるか
鹿児島県警は現職警察官らの不祥事が相次ぎ、その後の対応も県民が納得できるものとは言えず、信頼を失った。野川明輝前本部長による隠蔽(いんぺい)疑惑まで浮上し、組織そのものに不信の目が向けられている。一連の不祥事は、メディア捜索の是非や公益通報の適否、公安委員会制度の課題などさまざまな論点も浮き彫りにした。県民感覚を欠いた実情を見つめ、組織像を問う。(連載「検証・鹿児島県警第1部~欠けた県民感覚⑤」より) 9月末の午前7時。鹿児島市内の通学路で交通指導をする警察官らの姿があった。車に目を配りつつ、横断歩道を渡る子どもたちに「おはようございます」と笑顔を向ける。通行禁止区域に誤進入する車に迂回(うかい)を促したり、通行許可証を得るよう呼びかけたりした。 きっかけは「子どもが多い場所なので、安全確保のため取り締まってほしい」という住民からの要望だった。 登校時間帯が終わる頃には、近くの「こども110番の家」に立ち寄り「何かあれば教えてください」と声をかける警察官もいた。こども110番の家として10年以上協力する自営業の男性(56)は「県警の不祥事が目立つが、人それぞれ。相談に親身に対応してくれる警察官が多いのも確か」と話した。
■ □ ■ 警察官に、約150年もの間受け継がれているのが「警察手眼」だ。薩摩藩出身で初代大警視(現在の警視総監)の川路利良の語録で、警察官のあるべき姿を示している。 「警察手眼」は警察官に献身的な姿勢であることを厳しく諭す。「税金により買われた物品のようなものであり、値段に見合う働きを」「国民の苦悩は自分のものと思うべきだ」と記されている。 川路をモデルにした漫画「だんドーン」を監修する、郷土史家の下豊留佳奈さん(31)=鹿児島市=は「川路の夢は世界一の警察制度を作ることだった。組織が大所帯になると想定したからこそ、倫理観により統制しようと考えていた」と分析する。 川路の教えは警察組織を理解してもらうためでもあったと話す。「残念ながら今の県警は、県民が納得できる説明を尽くせていない」 ■ □ ■ 県警は再発防止策の冒頭に「社会の安全を支える警察活動には、県民の方々からの信頼が不可欠である」と明記した。刷新へ向けた具体策の目玉は「改革推進委員会・研究会」の創設。再発防止策の進捗(しんちょく)管理や組織運営上の課題を話し合う内部組織で、全職員が関わる仕組みとした。
委員会は原則非公開。「自由闊達(かったつ)に議論するためで、プライバシー情報や警察業務の特殊性から公開すべきでない事柄も含まれる」という。 組織運営に詳しい日本ガバナンス研究学会長の久保利英明弁護士=東京都=は「公開が自由闊達な論議を阻害することはあり得ない。民主主義の根幹は多様な議論と審議過程の透明性だ」と指摘する。 5日、野川明輝前本部長と交代した岩瀬聡本部長は就任会見で「(組織改革に)内輪の論理だけでなく、外の意見が大変重要だ」と述べた。県警は県民感覚を取り戻せるのか。その歩みが問われている。 =第1部おわり=
南日本新聞 | 鹿児島