米HPのエンリケ・ロレスCEOが行き着いたマネジメントの正解。「人に優しく、課題に厳しく向き合え」
PCやプリンターの製造のほかソリューション事業など、世界170カ国以上でビジネスを展開するHP社。同社はその前身であるヒューレット・パッカードカンパニーの時代から一貫して、人やコミュニティを大切にする経営方針を掲げてきました。 米HPのエンリケ・ロレスCEOが行き着いたマネジメントの正解。「人に優しく、課題に厳しく向き合え」 カリフォルニア州パロアルトに本社を構えるHPを率いるのは、スペイン出身のエンリケ・ロレス氏。2019年にCEOに就任したロレス氏に、世界的企業のトップになるまでのキャリアや自身の経営哲学について、お話を伺いました。
事業を支える「4つのピラミッド」
──これまでのキャリアについて教えてください。 私がHP(当時のヒューレット・パッカードカンパニー)に入社したのは35年前。インターンシップ・プログラムに参加するために、母国スペインからサンディエゴに来て一夏を過ごしたことがきっかけです。 プログラム終了後、会社の人から「スペインに研究開発センターを開設するのでそこに来ないか」と誘われ、入社しました。ハードウェア、ソフトウェアのエンジニアとして研究開発に携わりながら、夜間にはビジネススクールに通いMBAを取得しました。 その後、マーケティングやオペレーション、営業、サービスなどを経験し、それらの部門の管理職に。2015年にはヒューレット・パッカードカンパニーの分社化を主導し、新会社HP Inc.でイメージング、プリンティング&ソリューション事業を率いた後、2019年にCEOに就任しました。 分社化は、新会社を設立するのに似ています。組織編成やインフラ、法務などを含め、各国の拠点でビジネスを再構築する必要があり、多くのことを学びました。 さまざまな部門でマネジメント経験を積んだことと、分社化で学んだことの組み合わせが、CEOになるために役立ったと思います。 ──CEO就任後、まず手をつけたことは? 共に経営を担ってくれるチームをつくることです。創業の地である、カリフォルニア州パロアルト市の小さなガレージにチームメンバーを集め、最初の会議を行いました。 会社の出発点と伝統、メンバーの意志を確認するとともに、会社の目標を明確にしました。その時に定めたピラミッド状の4つの目標を今でも指針にしています。 ピラミッドの土台となる1つ目の目標は人材育成。HPは、従業員が仕事を通して学びながらキャリアを伸ばし、成長できる会社でありたいと考えています。 長く働いてもらえたらうれしいですが、同時に優れた才能を輩出する学校のような場でありたいと思うのです。 2番目は、公正で持続可能なテクノロジー企業になること。ポジティブなインパクトを社会に与え、より良い世界を次世代に残したいという思いはもちろんありますが、理由はそれだけではありません。 昨今では、持続可能性や多様性、公平性を重視し、そうした価値観を持つ企業から製品を買いたいと考える消費者や企業が増えました。持続可能な会社であることは、競争力の向上に繋がるのです。 第3の目的は、デジタル化の推進です。HPは80年以上前に設立された会社ですが、現状ではDXが十分だとは言えません。50年先もリーディング・カンパニーであり続けるためには、すべてのプロセスをデジタル化し、顧客とデジタルでつながる必要があります。 そして、ピラミッドの天辺。4番目の目標は、成長です。新規事業を開拓しながら新たな機会を創出し、時代に合わなくなった事業は整理するという、いわば「成長志向のポートフォリオ」を構築するのです。 そのためには、デジタル化や持続可能な仕組みづくり、適切な人材の確保が必要になる。すべての事業計画は常にこのピラミッドに基づいています。