米HPのエンリケ・ロレスCEOが行き着いたマネジメントの正解。「人に優しく、課題に厳しく向き合え」
人に優しく、課題には厳しく向き合う
──CEOに就任されてからは、コロナ禍などさまざまな困難に直面されたと思いますが、どのように乗り越えてきましたか? コロナ禍のような、前例のない状況では基本に立ち返る必要があると思いました。基本とはすなわち、自分たちの核となる価値観と原理原則のこと。 私たちは、従業員や、パートナー、顧客に共感を示しながら力になること、オープンで透明性を高くすることを心掛けました。 従業員とは定期的にオンラインミーティングを設け、彼らが直面している問題を把握しようと努めました。また、会社のリソースを動員してコミュニティの支援にも取り組み、たとえば、当時病院で不足していたマスクや器具などを、3Dプリンター事業のチームが作ることもありました。 特にパンデミックの初期、販売パートナーの中には資金繰りの問題に直面した会社もあったのですが、そういったパートナーには支払いの期限を延長するといった対応もしました。 このように私たちは、さまざまな形で従業員や地域社会に寄り添い、パートナーをサポートすることに力を注いだのです。 厳しい状況でしたが、あの時の判断は正しかったと思います。従業員のエンゲージメントはこれまでにないほど高まりましたし、リーダーとして多くのことを学びました。特に、透明性の重要性、親密さや共感を示すことの重要性を再確認しました。 収益面での影響はありましたが、それは一時的なもので、遅かれ早かれ元に戻るとわかっていました。しかし、従業員と信頼関係を保つことは長期的に見て絶対に疎かにできない。人というのは自分がどのように扱われたかを決して忘れないものです。 ──「人を大切にする」という方針には、どういった背景が? マネージャーになりたての頃は、目標を達成することに集中するあまり人に気を配ることができなかったこともありました。 次第に、目標を達成することももちろん大事だけれど、人を助けたり、丁寧に接したりすることの方が大事だと学びました。その方が、良い結果を継続的に出せるようになりますよね。 私が毎日実践していることのひとつであり、チームとも共有していることは「人にはやさしく、課題には厳しく」ということ。 好きで失敗する人なんていません。ただ、ビジネスでは問題が起きたり、物事が期待通りに進まないことはよくあります。リーダーは、うまくいかない原因を根本から理解し、何を変えるべきかを見極める必要があります。 さまざまな角度から何度も課題に対し問いを立てるため、関係者から詳しく話をきく必要があります。その際は、最大限の敬意を払って接すること。これが非常に重要です。人はどうしても自分が個人的に攻撃されていると感じてしまうものです。問題と人を切り離して考えなければなりません。