「冤罪と未成年の死刑囚」が執筆の背景に 『正体』原作者・染井為人氏が「僕自身もちょっと救われた」と話す、原作と映画の関係性
──映画制作サイドからの“愛”を感じたことで信頼が生まれたのですね。 撮影前に原作者と主演俳優、監督が密に連絡を取り合うことってあまりないんです。それだけ、お二人からは並々ならぬ意気込みやチャレンジ精神を感じました。「この映画は自分たちの力でいいものにする」という熱さがあったんです。 ■実際の事件や事例に触れて、“脱獄少年死刑囚”を主人公に ──小説「正体」執筆の背景を教えてください。 冤罪と未成年の死刑囚、この二つのテーマに興味をもったことが始まりでした。犯罪とまではいかずとも、やっていないことを「やった」と言われることは誰しもに起こりうるわけで、それはとても悲しいことじゃないかと思ったんです。それが冤罪ともなるとどれだけつらいのだろうと。また、昭和の時代は、逮捕されると厳しい尋問があり、精神的・体力的な限界があって罪を認めてしまう人も多かったと聞きます。いわゆる泣き寝入りをせざるをえなかった事例があったのではないかと思ったときに、現代にもそれがなきにしもあらずなのではないかと考えて…。それを小説にしてみたいと思うようになりました。 ──未成年の死刑囚をもう一つのテーマにしようとお考えになった理由は? この作品を書いたころ、未成年の死刑囚について書かれたルポルタージュを読んだんです。そのとき、未成年でも死刑宣告を受けることがこの日本でもあるという現実をあらためて目にして、それが良いか悪いかは別にして、とてもショッキングなことだと思いました。また、本作の主人公(未成年死刑囚)は脱獄をしますが、ちょうどその頃、脱獄事件が起こったんですね。犯人は自転車で日本中を逃げ回っていましたが、彼に会った人たちは皆、まさかその人が脱獄犯だとは思わなかった。若い人が自転車で日本縦断を目指しているなんていい話だと言って、ならば飯でも食わせてやろうと親切に接してくれたという。当時ものすごく報道されていたにも関わらず、彼は各地で写真を撮っているんですよね。笑顔を浮かべて。あれだけ堂々としていると、脱獄犯だということも意外とバレないものなんだなと思い、「未成年の死刑囚が脱獄して逃亡する」という題材にチャレンジしてみることにしたというのが経緯です。