【鹿児島・沖縄の糖業―迫られる変革】 製糖期延長で規制クリア 2交代維持、富国と与論島
製糖期は3~4カ月続く。従来2交代制だった工場は残業規制上限「複数月平均80時間以内」のクリアが大きな課題となった。達成手段にはいくつかあるが、奄美大島の富国製糖と与論島の与論島製糖は早い段階で、「製糖期間の延長」という手段の採用を決めた。 奄美市笠利町の富国製糖奄美事業所の中山正芳事業所長によると、年々人集めが厳しくなっていた中で、人員増を伴う体制への移行は難しいと判断した。 残業規制上限が盛り込まれた働き方改革関連法が施行された2019年度から「予行演習として」操業期間延長を続けている。それ以前の製糖期は通常1~3月だったが、12~3月にした。直近23―24年期は操業期間104日で、原料圧搾は約70日。工場は2交代制だが、休業日を多く挟むことで、残業規制をクリアしている。 「以前は月残業130時間以上という人もいたが、今のところ基準内に収められている。基準を超過しそうな人が出た場合は、その人を早めに帰らせ、勤務時間の短めな人がカバーするようにしている。ただ、今のところうまくいっているのは、故障が少ないから。突発事象が起これば熟練工に頼らざるを得ない」 前期操業時は社員24人、季節工67人(農務、ザラメ包装など含む)。勤務シフト変更後も季節工から不満の声は聞いていない。中山所長は「これからどうなるか。機械収穫の受託組合や原料輸送事業者も製糖期は臨時職員を使っている。工場が休みを増やせば、関連事業者も休みを増やすことになる。すべての分野で人を集め続けることができるだろうか。影響が広がらないか心配している」。 一方、製糖期に休みを多く挟むメリットもある。収穫後の畑の管理作業時間が生まれ、春植えの促進につながっているという。
与論島製糖与論事業所は、働き方改革関連法成立前の17―18年期から12月操業開始を恒例化した。理由は、収穫後の畑の管理作業や春植えの遅れが目立ち始めていたため。島の人材や機械は限られ、工程全体を前倒ししてカバーすることになった。 残業規制への対応は、19年の関連法施行を受けて、試行を重ねてきた。中野貴志事業所長は「2交代でも人はぎりぎりしか雇えていなかったので、最初から3交代への移行は考えなかった。人手確保と季節工の手取り確保という両面で検討を進めた」と振り返る。 具体的には、製糖計画を立てた段階で月残業が規制上限の80時間以内に収まるようシフトを組んだ。突発事象が発生して残業が増えた場合は後日早帰りさせた。月残業が60時間ですんだ場合は翌日以降少し増やし、月平均残業が80時間に収まるよう調整した。 前期操業は所長含め社員19人、季節工56人(農務、ザラメ包装など含む)。「厳しかった。季節工は6人足りない状態で走り出し、足りないまま終わった」と中野所長。季節工のうち島外は沖縄からの常連1人。事業所隣接の自社寮で自炊してもらった。 中野所長は、人集めは今後さらに厳しくなると見通す。「島の人口は減っていく。季節工は高齢化が進む。今平均60歳前後の季節工の方たちが引退していく頃を想像すると怖い」 こうも話した。「工場の自動化は避けられない。ただいろんな所に手を入れるにしても、島外から人を呼ぶとなると以前に増して費用がかかる。自動化を念頭に、手動でやっているものを電動スイッチ一つでできるように、自分たちでできることは自分たちでと思っている。島のキビ産業を維持させるためにも工場としての努力は積み重ねていかなければならない。与論島として『キビはいらないよ』と言わない限り、工場は維持していかなければならない」