定款に書くべき「事業目的」とは?「将来性を考えて幅広く設定する」の落とし穴【司法書士が解説】
会社設立において「事業目的の決定」は非常に重要なステップです。その内容次第で、設立後の運営や取引先との関係、さらには金融機関の信用にも大きく影響します。本稿にて事業目的を適切に記載するためのポイントと注意事項を見ていきましょう。加陽麻里布氏(司法書士法人永田町事務所 代表)が解説します。
事業目的とは?なぜ重要なのか
事業目的とは、会社が行う具体的な事業活動を記載したものです。この目的が定款に記載されることで、会社が合法的に行える事業範囲が決定されます。 【事業目的の役割】 1.会社の活動範囲を限定する 記載された事業目的の範囲内で、会社は法的に事業を行うことができます。 2.対外的な信用を構築する 取引先や金融機関は、事業目的を見て会社の活動内容を判断します。不明確な事業目的は「何をやっているかわからない会社」という評価を受ける原因になります。 3.許認可取得の前提条件となる 特定の業種では、事業目的に適切な文言を記載していないと、許認可が下りない場合があります。
事業目的を慎重に決定すべき理由
1.幅広すぎる記載は逆効果 事業目的を決定する際、よく、将来行う可能性のある事業を幅広く記載しておきましょう!というようなアドバイスを見かけます。しかし、事業目的を広範囲に設定しすぎると、会社が何をしているのかがわからないという印象を持たれる原因となり、取引先や金融機関からの評価に悪影響を及ぼすことがあります。 例)不必要に広い事業目的 ・「すべての合法的な事業活動を行う」 ・「飲食業、IT事業、不動産業、金融事業、その他関連する事業」 このような記載は「具体性がない」とみなされ、信用を損ねることがあります。特に、金融機関の融資審査では、「この会社は本当に何をしているのか?」と詳しい説明を求められる可能性が高まります。 2.実際に行う事業に限定する 事業目的は、設立時点で実際に行う予定の事業内容だけを記載するのが望ましいでしょう。設立後、新たな事業を開始する場合には、定款変更を通じて事業目的を追加することが可能です。 現実的な記載を勧める理由は、次のメリットがあるからです。 ・会社の活動内容が明確になり、取引先や金融機関に好印象を与える。 ・無駄な確認作業やヒアリングを避けられる。 ・不必要な審査を受けるリスクを減らせる。 〈ポイント〉 例えば、「仮想通貨取引」や「金融商品取引」といった内容は、事業として行う予定がない限り記載を避けるべきです。これらはリスクの高い業種とみなされるため、金融機関の審査が厳しくなる可能性があります。この事業目的を記載していたことにより銀行口座開設を断られたという声も…。 3.許認可に対応した正確な文言を記載する 特定の業種では、事業目的に許認可取得に必要な文言を記載しておかなければ、事業を開始できない場合があります。 例)許認可が関わる業種と必要な文言 ・建設業:「土木・建築工事の請負・施工」と具体的に記載。 ・飲食業:「飲食店の経営」。 ・人材派遣業:「労働者派遣事業」。 ・古物商:「古物営業法に基づく古物商」。 例えば、会社が人材派遣業を営む場合、会社の事業目的は「労働者派遣事業」と記載する必要があります。しかし、事業目的に「人材派遣業」と記載したらどうなるでしょうか? この場合、登記は問題なくできますが、実際に人材派遣業の許可を受ける際、窓口で正しい名称「労働者派遣事業」に目的を変更するように求められる可能性があります。 このように、許認可取得に必要な文言を事業目的に記載しておかなければ事業を開始できない業種を予定している場合、事業目的の文言を事前に許認可を所管する官庁や専門家に確認することが必要です。