なぜ? 「残業が半減」したのに「年収27%アップ」──元ブラック企業が取った、思い切った施策
「残業時間を半減」 クライアントワーク中心なのに、どう実現したのか
かくして「残業半減」を掲げた同社だが、その事業はクライアントワークが基本だ。残業時間の削減は、顧客にも影響が及びかねない。どのように納得してもらうかが課題となる。 そこで決めたのが、経営陣が矢面に立ち、顧客の理解を促進していく方針だ。レターを送付したり、業務フローを明確化して顧客の合意を取ったり。その際、「顧客側の生産性向上にもつながる」と丁寧に説明し、コミュニケーションを重ねていった。 また、人事評価に「生産性向上目標」を設けた。個人の努力だけではなくチームで取り組むべきとの考え方で、チーム目標として定めた。 前日までの残業時間を朝会で報告し、その日の残業の有無と時間を報告する。また、手元にある業務と所要時間を見える化し、マネジャーがアドバイスしたりチームで分担したりといった取り組みも効果につながった。全チームの目標として定め、日々細かくマネジメントしていくことで効果を上げていき、2018年度の残業時間は月平均で14.9時間に。3年間で半減させることに成功した。
残業を減らす分、先にベースアップ 「人件費削減が目的ではない」
こうして取り組みを進めていった同社だが、「残業時間削減」をめぐる企業と従業員の利害は、一般に必ずしも一致しない。社員の中には負荷が減ることを喜ぶ人も入れば、残業代が減ることを惜しむ人もいる。 このため、その年の残業の削減目標に合わせ、先んじて段階的なベースアップを実施。「残業を月5時間減らす」ことを目標に掲げる年には、5時間分の残業代を上回る額をベースアップした。最終的に、2019年時点で社員の平均年収は27.5%上昇(2016年比)。目標を上回る形で着地した。 「人件費削減を進めたいわけではないのだと、社員に分かってもらうことが重要だった」と高野氏は話す。会社が人件費アップを掲げている姿勢は嘘ではないと、誤解を防ぐ目的があった。 会社側と従業員の認識のズレは、残業代以外の部分で実はすでに生まれてしまっていた。改革の実施に当たり、社員に希望年収を聞いたところ、経営陣は驚きを覚えた。社員たちの回答は「すでに受け取っているはず」の額だったのだ。 認識のギャップは、ボーナスによって生まれていた。業績などによって上下する賞与は、安定的に入ってくるわけではないため、「受け取っている実感」を抱きづらかったのだ。このため、利益の半分を賞与の原資にする仕組み(詳細は前編参照)から個人評価に基づいて上下する形に戻し、変動幅を抑えた。 背景には、会社としての規模拡大とともに社風が変化し、安定的な報酬が好まれるようになったこともあった。また当時は、新卒採用で拡大するフェーズだったが、新卒社員は戦力化まで時間がかかる。短期的に見れば利益を引き下げてしまうため、利益を上げたい社員との間で、利害の不一致を招いていた。この状況を是正する意図もあった。