「2021名古屋市長選・河村市政12年の検証」第1回 「河村流ポピュリズム」の是非
「漠然とした期待」から明確な「線引き」へ
河村市長は、近年注目を集めた首長たちと同様、ポピュリズム型の首長に位置づけられることが少なくない。 ポピュリズムを含めた政治社会学を研究する中京大学現代社会学部(豊田市)の松谷満准教授は10年前、名古屋市民3000人を対象に意識調査を実施。市長選などでの投票行動や市議会リコール運動への関わり、政党・政治家に対する評価などをまとめ、東京・大阪での同様の調査と比較した。 それによれば「誰が河村市長を支持しているのか、特徴らしい特徴はなかった」が、「(橋下徹代表の大阪維新の会が支持された)大阪と比較すると理念や政策、業績よりも『既存の議会や市役所より、河村市長の方が市民目線にまだ近そうだ』といった感覚によって支持されてきたところがある」という。 こうした漠然とした改革への期待や、河村市長のパーソナリティーへの支持は今も底堅いと言えるだろう。しかし、今回の知事リコールについては「市長が知事を引きずり下ろそうとする普通でない事態である上、市政に直接影響のない表現の自由や価値観といったテーマが問われ、市民・県民に重要な問題として受け止められなかったのでは」と松谷准教授は分析する。 学問的に、ポピュリズムとは社会を「汚れなき人民」と「腐敗したエリート」の対立と見立て、「政治は人民の一般意思の表現であるべきだ」とするイデオロギーだ。その意味で、河村市長は典型的なポピュリスト政治家だと見られる。また、このイデオロギー自体がさまざまな矛盾を抱え、時に人を暴走させることは、大小の違いはあれど、今回の知事リコール騒動やアメリカのトランプ元大統領の末路が示したと言える。 政治家として大衆の要望や期待に応えることと、危ういポピュリズムとはどこで一線を画すのか。 「その線引きは非常に難しく、そのときどきのケースについてしっかりと議論がなされなければならない」と松谷准教授は指摘する。河村市政12年の何が認められ、どこからが許されざるものなのか。今回の市長選は、名古屋市民が「漠然とした期待」でなく、明確な「線引き」を示せるかどうかが問われる選挙になりそうだ。 (関口威人/nameken) * 4月11日告示、25日投開票の名古屋市長選は、現職の河村たかし市長に新人の各候補が挑む構図となる。 河村市政の12年を現場取材や識者の意見、対立候補の主張などを交えて3回の連載で検証する。第1回は知事リコール問題でもあらわになった「河村流ポピュリズム」に迫った。第2回は「名古屋城の木造復元をめぐる問題」について考えていきたい。