「2021名古屋市長選・河村市政12年の検証」第1回 「河村流ポピュリズム」の是非
河村流“庶民扇動”の限界も露呈
一方、今回の知事リコール運動による混乱で、河村市長に失望を隠せない関係者もいる。 ある民間会社役員の男性は、リコールの会の田中孝博事務局長から頼まれて河村市長と高須院長の間をつなぐ役目を担った。ただ、それだけのはずだったが、ネット上で黒幕のように社名や個人名が流され始めた。男性が大いに困惑していたところ、「田中事務局長を高須院長に紹介したのは誰か」をめぐって河村市長と高須院長の認識に食い違いが発生した。高須院長は「河村市長から直接、田中事務局長を紹介された」と説明していたが、河村市長は「ある民間の方が紹介した」と発言。名指しこそはしなかったが、男性に責任をなすりつけているように思えた。 ショックを受けた男性は「あんな人(河村市長)を応援していたのかと思うと寂しい。もう政治家は信用できない。政治とは一切関わらない」と声を落とした。 知事リコール運動は、8割とされる偽造署名がなければ実際に署名したのは10万人もいない計算になる。河村市長は「ネット(の盛り上がり)で十分いけると思った」と誤算を嘆くが、今回ばかりは庶民の怒りや憎悪を煽(あお)る河村流政治運動の限界が露呈した格好だ。 2009年に「市長給与800万円」の他「市民税10%減税」「市議報酬半減」などの公約を掲げて初当選した河村市長。選挙やリコールのたびに圧倒的な市民の支持を集め、看板政策をはじめ市職員の給与カットや各種事業の凍結、見直しなどを進めた。だが、市内部や市議会との幾度にも及ぶ衝突の末、減税は10%でなく5%で妥協。市議報酬はいったん半減したが、5年後には元の水準に戻った。 減税率は5%に半減したものの「減税によって逆に税収が増えた」と主張する河村市長に対し、市議会リコール時の議長で、4月25日投開票の名古屋市長選に、河村市長の有力対抗馬として立候補予定の横井利明・名古屋市議は「税収は減税した名古屋だけが増えたわけではない」と減税効果を疑問視する。 その横井市議は、コロナ禍の経済対策として「全市民に2万円の商品券支給」、市長給与を市民・県民の平均給与額「544万8000円」に引き下げる公約を打ち出しているが、これに河村市長は「選挙のための愚民政策だ」と批判している。 何がどこまで“庶民的”なのかをめぐる議論は、乱戦模様となっている。