サブカル文脈から読み解く2010年代以降のアイドルシーン、BiSとBiSHの快進撃
メンバーは歌っていないし、お客さんもステージを見ていない(笑)
パプリカ / BiS 田家:2011年3月発売、BiSの「パプリカ」。アルバム『Brand-new idol Society』の中の曲ですが、先週と全然違いますね(笑)。 西澤:そうですね(笑)。この頃のアイドルの多様性がすごいわかるかなと思いますね。 田家:この曲を選ばれているのは? 西澤:ライブでびっくりしたんです。普通のアイドルは基本歌に合わせてダンスをするんですけど、この曲は、1番でラジオ体操をする。2番になると、みんなでヘッドバンキングをするんですね。ステージ上のメンバーだけでなく、お客さんたちもみんなでヘッドバンキングしているので、メンバーは歌っていないし、お客さんもステージを見ていない(笑)。 田家:ただ、音が流れているんだ。 西澤:その光景が異様で、すごいおもしろいと思って。曲もロックが好きだし。 田家:ヘヴィメタっぽいですもんね。 西澤:すごくいいなと思って、それでハマっちゃって。 田家:そういうライブのエピソードっていろいろありそうですね。 西澤:先ほど文化祭みたいな話をしたんですけど、研究員もおもしろい人が多くて。メンバーがおもしろいことをやると、研究員はさらにおもしろいことで返そうとする。アイドル文化って、サビでステージに手を伸ばしたりするんですけど、BiSの後期の方になると手じゃなく、逆さまになって足がステージに向かっていたり(笑)。あと、自転車に乗った研究員が、他の研究員の上に乗っているとか。かなりおもしろい現場でしたね。 田家:プロモーション・ビデオを全裸でというのがありましたね。 西澤:「My Ixxx」っていうシングル曲のPVなんですけど、メンバー3人が全裸で樹海を走るMVで。それも賛否両論というか、炎上したんですけど。とは言え、もともとはシガー・ロスの海外の自然の中を男女がネイチャーな感じで走るみたいなMVがあって。 田家:メッセージがありますもんね。 西澤:それをオマージュしているんですけど、やっぱりアイドルが全裸で走っているというので、かなり話題というか賛否両論で盛り上がりましたね。それでグループがすごく知られた部分もありましたね。 田家:プロレスとコラボしたというのもありましたよ。 西澤:リング上でプロレスラーとプロレスをしたりとかもありましたし、それこそ非常階段とライブをしたときはステージから豚の臓器が客席に投げられたりとかもありましたし。 田家:それはかなり試行錯誤的にやっていたんですか? 西澤:BiSの場合は、ロックとかパンク、ハードコア界隈の方がすごく興味を持ってくださって一緒にやろうということがすごく多かったんです。お客さんもハードコアとかパンク好きな人が来ていたので、それもあって結構激しかったのがありますね。 田家:その話はこの曲の後にも続きます。 primal. / BiS 田家:2011年12月発売、BiSの「primal.」をお聴きいただいておりますが、作詞がBiSで作曲が松隈ケンタさん。 西澤:これは本当にBiSというか、渡辺さんのエモーショナルを体現したような楽曲ですね。この曲もそうなんですけど、メンバーも作詞に参加することが多くて。プラス、そのときの彼女たちの状態が曲に盛り込まれているんですね。この曲に「繰り返す思い出は 振り向かずに駆け抜けてきた」という歌詞があるんですけど、メンバーの脱退とかがあったり、グループ内が混乱するようなこともあったりした。そういうものも乗り越えて、このまま私たちは突き進んでいくみたいな。そういうものが曲に盛り込まれているという意味で、それまでのアイドルとはまた違う部分なのかなというところはすごくありますね。 田家:「primal.」というタイトルで、THE YELLOW MONKEYに「プライマル。」ってあったなというのを思い出す方もいらっしゃるでしょうけどね。 西澤:渡辺さんが実際THE YELLOW MONKEYがすごく好きで、リスペクトしているので、まさにTHE YELLOW MONKEYのラスト・シングル「プライマル。」からオマージュでタイトルはつけていると思いますね。 田家:イエモンの「プライマル。」は「卒業おめでとう、今度は何を食べようか」っていう歌詞ですが。 西澤:BiSでも「今度はほら何を食べようか」と歌っている。 田家:いろいろな好きな音楽があって、自分たちでそれをやりたいんだという方たちが集まって始まっている。それがサブカルアイドルだったという1つの例なんでしょうね。 西澤:そうですね。ももクロが間口を広げてくれたおかげで、何をかけ合わせてもおもしろくなる可能性があることにみんな気づいた。好きなものをかけ合わせて新しいものが生まれていった。 田家:なるほどね。BiSは2014年7月8日に横浜アリーナで解散するわけですが、解散コンサートのタイトルが「BiSなりの武道館」。 西澤:活動を始めて、途中から武道館をやって解散をすることを目標にしてやっていたんですけど、解散発表前に諸事情で武道館公演ができなくなってしまったんですね。それで急遽横浜アリーナでBiSなりの武道館だということで、最後ライブをやって解散をした。 田家:武道館側から使用を断られたということなんですかね。 西澤:直前まで決まりかけていたんですけど。 田家:矢沢永吉さんが会場を拒否されたというのに近いですね(笑)。 西澤:さっき言っていたみたいに、いろいろ諸刃の剣でやってきたグループなので、それを良しとする人たちもいれば、なかなか受け入れてくれない人たちもいるというところもあると思うので、致し方ないとは思うんですけども。 田家:武道館に使用拒否されたアイドル、かっこいいじゃないですか(笑)。 西澤:そうですね(笑)。2024年7月8日に、解散10周年イベントということで、一夜限りの復活ライブを新宿のトー横の広場でやったんですよ。 田家:トー横広場でやったの(笑)。 西澤:フリーライブを平日の夜にやったんですけど、本当は8曲ぐらいやる予定だったんですけど、「nerve」って曲をやったら、会場に入りきれなかった外のお客さんたちが盛り上がりすぎて、警察が集まって(笑)。 田家:すごいなあ、トー横キッズとBiSなんだ(笑)。 西澤:最後の曲をやる前に中止になったという。 田家:で、その後にBiSHが誕生するわけですね。この曲の後にその話を始めたいと思います。