9月26日に「袴田事件」再審判決 釈放を決めた元裁判官は「冤罪救済に時間がかかり過ぎる」「人権問題を超えて人道問題」
「高齢」が大きなウェイトを占めるのでは
――昔(戦前)は不利益再審がありましたね。 そうです。今はありません。その制度設計からすれば、期間短縮は冤罪救済のメリットです。救済を早くしなくてはならない。 ――「袴田巖さんも姉も高齢だから早く無罪判決を」の反面、「再審で証拠捏造を徹底的にあぶり出してほしい」という思いもありました。 証拠の捏造についてどこまで裁判所が突っ込むかですが、捏造かどうかを直接審理することはできません。5点の衣類の証明力、発見された経過についての理解がポイント。捏造だからといって特別な審理が行われることにはならない。「あれは捏造でした」という警察官が現れれば別ですが、あり得ないでしょう。 今回は(再審を)一審で終わらせなくてはならない。制度上、検察は控訴も上告もできる。それは絶対に避けなくてはならない。ご高齢ということが相当大きなウェイトを占めると思います。 ――控訴云々は判決内容に左右されるのでしょうか。捏造のことを強調しているとか。 一般論としては、検察としては捏造とされれば聞き捨てならない。反論はするでしょうが、現実にどうするか。昨年の東京高裁の決定も捏造の疑いは指摘していた。その時、検察は特別抗告をするだろうといわれましたがしなかった(註:不服がある場合、検察は5日以内に最高裁判所に特別抗告できる。この時は特別抗告が行われなかったため、静岡地裁で再審となった)。 抗告断念した検察は再審で有罪立証しました。私は有罪立証すると思いました。方針は最初決まらなかったようで、部内で協議していた。抗告断念することと有罪立証することは必ずしも矛盾しません。
事実認定は総合評価
――9月26日の再審判決は無罪という見方も多いようですが、懸念はありますか。検察は「(証拠とされる衣類に血液の)赤みが残る可能性」しか指摘できません。それなら「疑わしきは被告人の利益」の原則からだけでも無罪なのでは。 元裁判官として判決の予想はしないのですが、報道で知る限りは請求人側の証拠も法廷で十分に提出できていると見ます。しかも、検察側の証人の科学者も半ば弁護団側証人と同じような証言をされていたようです。「疑わしきは」の原則は当然適用されます。 しかし、検察は5点の衣類だけではなく、袴田さんが真犯人であるという他の様々な状況的な証拠を並べて有罪立証しようとした。事実認定は総合評価です。「赤みが残る可能性では有罪にできないでしょ」と思われがちですが、そうではない。他の証拠で「かなり有罪」と立証できていれば、赤みが残っていることが有罪を排除しないということはありうる。検察はそのようなことを考えているのだと思います。 ――今回、科学者の検察側鑑定人までが「赤みは残らない」と言ったので、検察は苦しいですね。 それは自覚していると思いますね。