“ほぼ業務に関係ない長電話”で残業代請求、会社は「人事評価下がる」と“待った”…裁判で従業員に軍配が上がった理由
裁判所の判断
Xさんの勝訴である。 裁判所は会社に対して「慰謝料30万円払え」と命じた。裁判所は「悪口メールについては会社がXさんに対して厳しい対応をしてもやむを得ない」としつつも、以下の行為は違法と判断した。 ■ 残業代請求しないほうがいいよ発言 部長の「残業代を請求するとあなたの人事評価が下がるのでやめたほうがいい」について、裁判所は「Xさんの権利行使を不当に阻害するものであり違法」と指摘した。 ■ けん責処分(2時間30分の通話) 裁判所は「たしかに、通話には業務と関係のない会話が含まれていた」としつつも、「Xさんの処理すべき業務量が多かったと推認できる。なぜなら、退出時刻を見ると、前日は午後10時30分ころ、当日は午前1時ころ、翌日は午前2時ころだからである。これらの残業は会社から承認を受けている。そうすると、Xさんは業務に関連する電話を受けたあとに、通話作業をしながら業務を行っていたと認めるべきである。たしかに作業密度などの点において問題がないとは言えないとしても、それを理由にけん責処分までするのは重すぎて相当性を欠いている」と判断した。 (ちなみに、残業代に関しては裁判の中で和解が成立しているようだが、2時間30分の通話時間分に対して支払われたかは不明) ■ 3回の面談 この面談については裁判所は「違法ではない」としている。 〈理由〉 ・1回目と2回目はXさんが自らの意見を述べている ・3回の面談で取締役が声を荒らげることはなかった Xさんは「3回目の面談で退職勧奨されており、これは違法だ」と主張したが、裁判所は「悪口メール問題は厳しい対応をされてもやむを得ないので、Xさんの自由な意思が確保された上であれば、退職勧奨されても、Xさんにおいて甘受すべきものだったと言わざるを得ない。今回は、Xさんの自由な意思が確保されていた」と結論付けた。 【マメ知識】 退職勧奨は合法で、退職強要は違法である。ポイントは「自由な意思が確保されていたのか?」だが、線引きは非常に難しい。 (関連記事:「夜勤ができないなら…」看護師に“退職強要” 追い込まれても“絶対に”「退職届」を出してはいけないワケ)
最後に
「残業代請求すると人事に響くかもよ」のような発言は、言語道断ではある。判決文には部長や取締役の発言の詳細が記載されていたので、Xさんが録音していたということだろう。 読者のみなさまも、何か不穏な空気がただよう面談に召喚されたときは、録音することをオススメする。 ■ 林 孝匡(はやし たかまさ) 【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。
林 孝匡