「もう一つのパレスチナ」ヨルダン川西岸 住民も近寄らない難民キャンプ 「獄中では拷問」の証言も
パレスチナ自治区ガザで昨年10月に始まったイスラエル軍とイスラム原理主義組織ハマスの戦闘は、レバノンやシリアに拡大した。国境を越えて広がる戦火の陰で、もう一つのパレスチナ自治区であるヨルダン川西岸でもイスラエル軍の攻撃は日常化し、住民生活を圧迫している。難民キャンプでは民兵がスパイの潜入を警戒し、部外者を寄せ付けない緊張感が漂っていた。 【写真】難民キャンプにはイスラエル軍との戦闘で死亡した若者たちをたたえる張り紙があった ■イスラエル極右「来年は西岸を併合」 西岸の人口約330万人のうち約280万人はパレスチナ人だ。一方、熱心なユダヤ教徒は聖書に記述が登場する西岸を「神から与えられた土地」だと考え、146の入植地に約47万人のユダヤ人が住む。 12月1~3日にパレスチナ通信が報じた西岸のニュースの一部を紹介すると、イスラエル軍はパレスチナ人の村で住居や農作業小屋を破壊した。中心都市ラマラなど西岸全域で一晩に少なくとも15人を拘束した。さらに、パレスチナ人2人が獄中で死亡した。死因や状況は不明だという。 エルサレムを含む西岸では昨年10月以降、1万1千人以上のパレスチナ人が逮捕された。人権団体はイスラエルが管理する刑務所で「組織的虐待と医療の欠如」が起きているという。 米大統領選で親イスラエルのトランプ前大統領が復帰を決めた11月、イスラエル連立政権に加わる極右のスモトリッチ財務相は「2025年は(西岸に)主権を適用する年になる」とし、「西岸併合」に意欲を示した。 ■「言いがかりつけ長期投獄」 過去に何度も軍に逮捕されたという元高校教師、オマル・アサーフさん(75)に自治区ラマラで会い、獄中生活の実態を聞いた。今年9月のことだ。 アサーフさんは昨年10月、ラマラ中心街でイスラエルのガザ攻撃を批判するデモに参加して軍に逮捕され、約半年間、投獄された。獄中では6人のベッドしかない部屋に12人入れられ、乏しい食事で101キロあった体重は72キロまで落ちた。礼拝の際に祈りの言葉を口にすると、看守に警棒で殴られたりゴム弾で撃たれたり、連れてきた犬にかまれたりしたという。 投獄された当初、イスラエルの尋問官は「ハマスの有力指導者だな」と詰め寄ってきたが、1カ月もすると「若者の運動を組織しているな」と言い始めた。アサーフさんは「長期間、拘束する言い訳が必要なだけだ」と吐き捨てた。