通信技術の世代交代時に起きる携帯各社の競争状況
通信品質の調査を行う英Opensignalのデータが、携帯電話事業者の新たな競争指標として話題を集めている。携帯電話事業者のトップの中には通信ネットワークの設備投資に関しては「非競争領域」だとする発言もあった。今回は3Gから4G、4Gから5Gなど通信技術の世代交代時における携帯各社のネットワーク戦略について考えてみたい。 ■ 分かれる通信品質の差 10月に発表されたOpensignalの5Gの通信品質に関する調査では、KDDIが18部門中13部門で1位を獲得するという4社の中では頭ひとつ抜きに出た結果となった。全体的にはKDDIとソフトバンクがトップを競い、NTTドコモと楽天モバイルがやや差をつけられているような状況となっている。 5Gネットワーク戦略に関しては、KDDIとソフトバンクが4G周波数帯を5Gに転用する「NR」戦略で、通信速度よりも5Gのエリア展開を優先したのに対し、ドコモは5G向けに割り当てられた新周波数帯向けに5G基地局を展開する戦略を「瞬速5G」と名付け競い合ってきた。 ドコモも「NR」を否定しているわけではない。対外的には5Gのサービス開始当初から「NR」を推進すると、契約者の5Gへの乗り換えが進んでいない状況では、既存の4G利用者の通信に影響を及ぼす可能性があると説明してきた。そのため、4G契約者数の減少トレンドに入った2022年春から「NR」も取り入れ始めている。 最近、ドコモの無線機ベンダーで富士通が外されて、代わりにエリクソンが選択されたとの一部報道が話題となった。4Gから5Gへ移行するソリューションで先行するグローバルベンダーと比較し、国内ベンダーは「開発が遅れている」「対応できていない」という情報は当時から聞かれていた。この辺りも、国内ベンダーを優先して採用してきたドコモが当初から「NR」を導入できなかった一因かもしれない。 ■ NW戦略はキャリア間の競争に直結する 2023年からのドコモのパケ詰まり問題など、現時点のネットワーク戦略では、4Gから5Gへのスムーズな移行を進めてきたKDDIとソフトバンクに分があるように映る。 10年をひとつの周期にアップデートが繰り返されている携帯電話の技術方式では、従来の技術方式から新方式へどのように移行するかによって、競争差異が生まれてきた。たとえば2Gから3Gの移行に際しては、PDCという日本独自の2Gを採用し互換性のないW-CDMAを選択したドコモとJ-フォン(現ソフトバンク)、cdmaOneから互換性のあるCDMA2000 1xを採用したKDDIでネットワーク戦略は分かれた。 通信速度などではW-CDMAが有利だったものの、cdmaOneのネットワーク上に800MHzの低い周波数帯で一気にエリアを広げたCDMA2000が、その後の加入者獲得競争では優位に立った。当時、一気に国際規格へ舵を切ったW-CDMA陣営がRevolution(革命)だったとすると、下位互換性を重視したKDDIはEvolution(進化)を選択したと言われた。 3Gから4Gの移行では、3Gで2つに分かれた陣営がW-CDMA系のLTEで4Gの国際規格が統一されたことで、当初はKDDIの苦戦が予想された。しかし、同社はいち早くLTE戦略へシフト(LTE開始は2012年9月~)し、2014年12月にはLTEのネットワーク上でVoIPによる電話サービスを実現するVoLTEサービス「au VoLTE」を開始し、対応端末2機種を発表した。それまでの同社のLTE端末では、通話する際に3G(CDMA2000 1X)にフォールバックしていたが、同端末から3Gの通信方式としてCDMA2000の機能すら非搭載とした。 現在、3社の技術方式は同じとなったが、その中で先に述べたようにどのようなネットワーク戦略を選択するかによって、加入者獲得やブランディングなどの競争力に差が生まれている。 ■ ドコモの今後のNW戦略は 一方、一部報道でも指摘されているようにドコモがすんなりグローバルベンダーにシフトできるかというと、そう簡単なことではない。NTTは政府が株を保有する純粋な民間企業ではないことや、経済安全保障の観点から政治マターになりやすいという事情がある。 グローバルベンダーの機器を調達するということは、これまでのような「ドコモ仕様」と言われるOEMではなく、基本的には世界共通の標準品を購入することになり、1000名前後いるとされるR&D部隊の存在意義も問われかねない。 さらに言えば、ドコモが持つ5G向け周波数帯の中で4.5GHz帯は日本独自であり、そこをグローバルベンダーが面倒を見るとは考えにくい。昔、あるグローバルベンダーの日本人技術者に取材した際に「世界の極東の1社のためだけに工場に専用ラインを作るなんてありえない」と言われたことが思い出される。 携帯各社のネットワーク戦略は、世代交代しても変わらぬ重要なKPIとして、更なる競争が繰り広げられていきそうだ。
ケータイ Watch,MCA