「同時進行ってできなくて、器用ではない」演技に歌に貪欲な、松下洸平の人生設計
ドラマの出演が続き、舞台での活躍もめざましい松下洸平は、今最も注目される俳優の一人だ。誠実で爽やかな印象だが、シンガーとして発信する楽曲では、男の色気を醸し出す。自在に絵も描き、文章も得意と多才ぶりを発揮しながら、派手さやクセの強さは感じさせない。ワイルドではないが、しなやかな強さを秘める。「出すぎた杭は打たれない」松下の絶妙なバランス感覚とは。(取材・文:山野井春絵/撮影:木村哲夫/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
同時進行ってできなくて、器用ではない
松下は今、とにかく忙しい。 NHKの朝ドラ『スカーレット』でブレーク、俳優業は絶好調。春の新クールドラマ『やんごとなき一族』(フジテレビ)にも出演。さらに3月に始まる主演舞台、音楽劇『夜来香(イエライシャン)ラプソディ』では、音楽家・服部良一役を演じる。去年はミュージシャンとしてCDデビューも果たした。作詞作曲も手がけ、透明感と色気を兼ね備えた声で上質なラブソングを歌い上げる。
絵画も、さらにダンスも得意。まさに、マルチタスク自在な令和のアーティストなのだ。 それでもインタビュイーとして目の前に座る松下は、ごく自然体だった。忙しがらず、偉ぶらず、そこにいるだけで周囲の人をほっと和ませる。なんとも不思議な魅力を放っていた。 たくさんの仕事を同時期にこなしていくことに、難しさを感じることはないのか、また、自分の中で、どのように切り替えているのだろうか。 「今は舞台の稽古中なんですが、現場で共演者の顔を見たら自然と、明るくておおらかな役柄モードになります。でも稽古場から帰る途中で、ミュージシャンモードに脳が切り替わって、帰宅したら曲づくり……という感じで、場所で変わるという感じかなぁ。いわゆる同時進行ってできなくて、器用ではないんですよ」
場所によって、そのつど頭を切り替える。 それはあくまでも「仕事脳」なのだと松下は言う。 「なるべく客観的に自分を見ようと心がけています。芝居だったら、自分自身と相手役、お客さんのこと、いろいろ考えて。音楽も、聞き手の気持ちを考えたり、絵も雑誌に載るものを描くことが多いので、我を忘れて……という感覚で描いてるわけではなくて。だからこの間テレビ番組で、久しぶりに陶芸をやらせていただいたときには、何も考えず指先に集中することができて純粋に楽しかったです。」 出世作となった『スカーレット』では、陶芸家のヒロインの夫、陶工の役を演じていた。 「『どうぞお好きにつくってください』と言われて。カメラが回っているから、いろいろ考えてしまうかな?と思ってたんですけど、ただ黙々と作陶に没頭しました。無理なく無我夢中の境地に入れて。あれはきっと、誰のためでもないからなんでしょうね。自分のためだけに何かと向き合う時間、そういう感覚は大事だなと思いました。音楽も、絵も、ありのままの自分を表現するためには、誰のためでもないものをつくるべきなのかもしれない。最近、陶芸を通じてハッと気づかされたような……」 芝居と音楽の両輪で走ることは容易ではないが、目指す先には、バランスよく走行していくアーティスト像がある。 「芝居はいいけど音楽はあんまり……とか、その逆もあるとは思うんですけど、僕としては、この二つがきれいに耕されて、どちらも受け入れてもらえる人間になりたいという希望があって。まだまだ、僕の歌っている姿が新鮮だという方もたくさんいらっしゃると思うんですけど」