DeNA残留は「あまり悩まなかった」 佐野恵太の忘れられない8年前の恩義
「いやあ、びっくりするんじゃないですか」。DeNAの佐野恵太(30)は、グラウンドを見つめて穏やかに笑った。11月に開催された野球の国際大会「プレミア12」の決勝前。プロ8年目で初めて日の丸をつけてプレーする思いを尋ねると、こんな答えが返ってきた。「ドラフト9位でギリギリかかったあの頃の自分に、『プレミアに出場できてるよ』って言ったら、びっくりするんじゃないですか。3年でクビにならないように頑張んないと、と思って始まったプロ人生だったんで」。DeNAへの残留を決めた30歳には、8年前の忘れられない一日の存在があった。 【写真】人気ユーチューバーのサワヤン兄弟とデスターシャポーズを決める牧秀悟、ヤンさん、サワさん、佐野恵太、桑原将志 ■「苦しい、悔しい」ドラフト 8年前の2016年10月20日。広島・広陵高を経て、明大4年時に迎えたドラフト会議で、佐野は人生の中でも「長く、苦しい、悔しい」時間を過ごすことになった。 明大の同期には柳裕也(中日)と星知弥(ヤクルト)がいた。ドラフト開始直後に柳の名が呼ばれ、星も2位ですぐに指名を受けた。集まった報道陣向けの会見が始まり、そして終わった。それでも、まだ「佐野恵太」の名前は呼ばれなかった。 育成契約での指名なら、社会人野球でプレーすることを決めていた。「もうこのタイミングではプロに行けないんだろうな…」。1球団、また1球団と選択終了のアナウンスが響くたび、次の道に向けて心を切り替えようとした。運命の瞬間は、そんなタイミングで訪れた。 セ・リーグでは最後となる、ドラフト9巡目でDeNAが指名。「今でも鮮明に覚えてます。待ってる間に、柳の『お母さんありがとう(ドラフト選手の特集番組)』も始まっちゃってましたからね(笑)。だから胴上げもしてもらえてないんですよ、僕」と少し寂しそうに振り返る。この年に支配下登録選手として指名された87人中、実に84番目の指名だった。 順位はどうであれ、プロへの道は開けた。チームメートから祝福を受け、安堵(あんど)の思いがこみ上げる。しかし、同時に心の中にはある感情が湧き出てきたという。 「嬉しさと、悔しさみたいなものが半々交じり合ってて。絶対にプロの世界でやってやるんだっていう思いは、その瞬間からありましたね」