最も注目を集める若手建築家・秋吉浩気。アプリ開発や3D加工機の輸入販売を手掛ける建築家は一体何を考えているのか…
富山の集落に立つシェア別荘「まれびとの家」
そうした一連の取り組みが、家という形で初めて実を結んだのが「まれびとの家」。富山県の集落に立つシェア別荘です。ところで、秋吉さんのいう「“つくる”を個人の手に取り戻す」とは、その技術的な方法だけを指しているわけではありません。材料の調達から製材などまで地域のなかでやり遂げることで、大手のサプライチェーンを離れ、ローカルの産業を守るという意義も多分に含まれているのだそう。 この「まれびとの家」こそ、3D木材加工機と地元の木材を使い、すべてを地域で完結させるという考えを遂行したプロジェクト。集落に根付く伝統の合掌造りをオマージュしながら、現代のテクノロジーを融合した新しい建築の成り立ちを表現してみせました。 「今の日本の建築シーンでは、工法というものが確立されている分、設計者はコンセプトとかプランを考えればいいという状況になっている側面もありますよね。反面、むしろ建築家の創造力がその産業に縛られているともいえます。産業化されていない材料とつくり方から考え直せば、もっと未知の表現が生まれるはず。僕は、その土地、材料、人、機械、そのなかでできる建築方法を開発することで、表現の問題に取り組んでいけないかと考えているのです」。
デジタル技術を活用して、ものづくりにこだわる機会を届ける
続けて秋吉さんはこう語ります。「住宅は特に、生涯をかけた建物になることがほとんどですよね。だからこそ、その人の夢とか希望とか個性から生まれる、既存の手法ではできない唯一のものを一緒につくりたい。住み手にいかに主体性をもってもらえるかは、良いもの、新しいものをつくるための原動力です」。 「デジタル」や「アプリ」というアナログと対極にあるようなワードを聞くと、どことなく建築を簡潔化するようなイメージをもたれるかもしれません。でも、秋吉さんが志すのはその逆。デジタル技術を用いることで、誰もがデザインに参加でき、こだわりをもつチャンスが生まれる。「丁寧にものをつくる、質を高めることを、すごく合理的に行っているのです」。