日本の農業は「伝統と未来を両立できるいいポジション」 国連機関のベクドル事務局次長が日本の技術に期待
ロシアによるウクライナ侵攻や新型コロナウイルスの流行をきっかけに、安定的に食料を確保する「食料安全保障」の重要性に対する認識が世界的に高まっている。日本の農業技術を視察するため来日した国連食糧農業機関(FAO)のベス・ベクドル事務局次長が共同通信のインタビューに応じ、食料安全保障の問題は「もはや特定の国・地域の問題ではなく、(先進国を含めて)世界が共通に抱える問題に変わった」と強調した。 カカオ原産地で横行する児童労働、「ブラックサンダー」は撤廃目指し調達先を変更 日本のチョコ会社で進む現地の農業支援と環境改善
日本は、伝統的な農法と未来型の「スマート農業」を両立できるポジションにあると指摘。アフリカや東南アジアへの技術展開に期待を示した。(共同通信=徳光まり) ▽食料安全保障は先進国にも重要な課題 ―食料安全保障はこれまでは途上国を中心とする課題だったとの印象があります。 「食料安全保障は飢餓や栄養リスクの問題もありますが、国際的に認識が高まり、もはや特定の国・地域の問題ではなく、(先進国を含めて)世界が共通に抱える問題に変わったと思います。FAOは農業、食の生産をいかに効率的で強靱にできるかというのが一番大事な仕事です。特に農家を中心に、従来とは違う生産の手段や方法を実現していくことが重要です」 ―各国が食料安全保障を強化するために乗り越えるべき壁は何でしょうか。 「食料生産システムは農業単体ではなく、世界的な経済や社会と関連し、エネルギーや貿易、環境、公衆衛生ともつながっているとの認識が必要です。また、近年は戦争や気候変動、災害など次から次へ危機に見舞われる中、被災地や紛争地帯で一番弱い立場に置かれるのは農業従事者です。農村の人たちを念頭に置き、支援方法や資源の配分を考えるべきです」 ―支援とは具体的には何でしょうか。
「直接的な食料支援は、病気に例えると原因ではなく単に症状への対症療法です。つまり、食料や水、シェルターを提供することに加え、各国政府は農業支援の検討が必要です。FAOでは種や家畜防疫に必要なワクチン、家畜の餌、かんがいのための水管理に関わることなど農家にとって基本的な需要への支援を、厳しい状況に置かれた国々へ行ってきました。こうした手法で、農業の強靱化を進めるべきです」 ▽日本は伝統的な農法と未来型の農業が両立可能 ―日本の農業技術や取り組みへ期待することはありますか。 「日本は伝統的な農法と、「スマート農業」と呼ばれる未来型の農業をともにできるいい立場にあります。例えばかんがいの水管理や自律型の田植え機械、ドローンで肥料を投入できる仕組みがあり、自動化のための技術やデジタルを使った取り組みがたくさんあります。ただ小規模の農家を念頭に置いて開発されたようなので、他国の状況に合わせた形での導入と、途上国向けにはコストを下げることが必要です」 ―日本の技術を広げるなら、どの国や地域へ適用できると思いますか。