より安全性の高い新しい睡眠薬が次々登場 睡眠薬嫌いの日本、嫌われ者の汚名返上なるか?
1960年代に登場の「ベンゾジアゼピン受容体作動薬」、抗不安薬にも
危険性が高いこれらに代わる睡眠薬として世界を席巻したのが1960年代に登場した「ベンゾジアゼピン受容体作動薬」である。国内では1967年に「ニトラゼパム」が最初に登場して以降、多数の新薬が登場し、50年間以上にわたり不眠症治療薬として使用されている。現在でも国内で処方される睡眠薬の80%近くがベンゾジアゼピン受容体作動薬である。 ベンゾジアゼピンのなかでも、催眠作用の強いものが睡眠薬として、不安緩和作用の強いものが抗不安薬として使用されている。 ベンゾジアゼピンが発見された当初はその作用部位が不明だったため仮想的にベンゾジアゼピン受容体と命名された。その後、ベンゾジアゼピンはGABA受容体に結合して催眠作用を発揮することが明らかになったが、そのまま名称に残っている。GABAが存在する状況でしかGABA受容体に作用しない点がバルビツール酸系/非バルビツール酸系睡眠薬との大きな違いである。 ベンゾジアゼピン受容体作動薬は覚醒系神経核の活動を抑えるだけでなく、患者でよく見られる不安や筋緊張を和らげるなどの効果もあいまって治療効果が高い。またバルビツール酸系/非バルビツール酸系睡眠薬と異なり大量に服用しても一定程度以上効果が強まらない特徴があるため、より安全性が高いとして急速に医療現場に普及した。 ところが、多くの患者が利用するにつれて、ベンゾジアゼピンの乱用や依存症の事例が増加し、決して安全な薬剤ではないとの批判が高まった。最近ではベンゾジアゼピン受容体作動薬の長期服用によって認知症のリスクが高まるとの研究報告もある。睡眠薬を服用するのは主に高齢者なので懸念材料となっている。
より安全性の高い最新の睡眠薬とは
より安全性の高い睡眠薬が求められる中で登場したのが「メラトニン受容体作動薬」と「オレキシン受容体拮抗薬」である。メラトニン受容体作動薬は2010年に、オレキシン受容体拮抗薬は2014年に最初の新薬が登場したことからも分かるように、まだ歴史が浅い睡眠薬である。 メラトニン受容体は覚醒系・睡眠系神経核の切り替えのタイミングを調整している体内時計である「視交叉上核」に存在している。脳内物質であるメラトニンが視交叉上核の受容体に結合すると眠気が生じるほか、体表面からの放熱を促して脳温が低下したり、生体リズムが安定化するなどのユニークな作用を発揮する。メラトニン受容体作動薬はメラトニンを模した作用を発揮する。 もっとも新しい睡眠薬は日中の覚醒を支えるオレキシンの作用をブロックするオレキシン受容体拮抗薬である。夜間にも残存しているオレキシンの活動をしっかりと抑えることで睡眠を安定化させる効果があり、新薬が次々と登場している。 「レンボレキサント」「スボレキサント」の2種類がすでに処方薬として広く利用されているが、3番目の新薬である「ダリドレキサント」が間もなく医療現場に登場する。また新たに「ボルノレキサント」が厚生労働省に製造販売承認申請され、順調に審査が進めば来年以降に承認される予定だ。 これまでの睡眠薬で問題となっていた依存性や認知機能障害のリスクが低減されているためオレキシン受容体拮抗薬の処方が増加している。今後多くのラインナップが出揃うことで、ベンゾジアゼピン受容体作動薬に代わって不眠症治療薬の主役になるかもしれない。 とは言え、登場して10年程度しか経過していないため、安全性について結論を出すのはまだ先になる。最近なにかと評判の悪いベンゾジアゼピン受容体作動薬も登場間もない時期には優れた薬剤として大人気であったのだ。 余談になるが、現在流通している市販の睡眠薬の多くはアレルギー性鼻炎などに使われる抗ヒスタミン薬である。古いタイプの抗ヒスタミン薬は服用後に眠気が出るが、これは脳内に移行してヒスタミンの作用をブロックするからである。 薬物の副作用を逆手に取った商品であり、個人的には感心しない。脳内に長く留まって日中の認知パフォーマンスを低下させることもある。市販の睡眠薬は旅先などでの一時的な不眠に対して使うことのみ許可されており、不眠症の治療目的では使用しないように勧告されているのでご注意を。
(三島和夫 睡眠専門医)