より安全性の高い新しい睡眠薬が次々登場 睡眠薬嫌いの日本、嫌われ者の汚名返上なるか?
「覚醒系」と「睡眠系」がせめぎ合う脳
「「起きるか眠るか」のせめぎ合い、どのように軍配が上がる?」で解説したが、脳内には目覚めを引き起こす「覚醒系神経核」と、覚醒系神経核の活動を抑え込むことで眠りを引き起こす「睡眠系神経核」がある。 覚醒系神経核には「結節乳頭核」「青斑核」「中脳被蓋」など幾つもあり、これらの神経核から放出された最も強力に脳を覚醒させるヒスタミン、ノルアドレナリン(情動興奮、血圧を上げるなどの交感神経の活性化)、アセチルコリン(記憶や思考に関与)などの神経伝達物質が大脳皮質活動を高めて覚醒を促す。これら覚醒系神経核が日中に安定的に活動を維持できるように支えているのが視床下部で産生されるオレキシンと呼ばれる神経伝達物質である。 一方、夜間には睡眠系神経核が覚醒系神経核の活動を抑え込むが、その際に作動する神経伝達物質がGABA(ギャバ)である。GABA が神経細胞のGABA受容体に結合すると細胞の周囲にある塩素イオン(Cl-)が細胞内に流入して細胞の電気活動が抑制される。GABAは脳内に広く分布して脳活動を抑える役割を果たす。 睡眠薬はこれらの神経伝達物質の作用を強めたり弱めたりすることで催眠作用を発揮する。最初の睡眠薬はこのGABAの作用を増強する薬物の開発から始まった。
第一世代「バルビツール酸系」と「非バルビツール酸系」
日本国内の最初の睡眠薬は1915年に登場した「ブロモバレリル尿素」である。それ以降、1950年代に「アモバルビタール」「ペントバルビタール」「抱水クロラール」など「バルビツール酸系」「非バルビツール酸系」と呼ばれる睡眠薬が次々登場した。 これらの睡眠薬の作用は強力でGABA受容体に結合して覚醒系神経核の活動を抑えるだけではなく、呼吸や循環、自律神経系など重要な生体機能に関わる脳部位も広範に抑制する。そのため過剰摂取によって呼吸停止など死に直結する副作用が生じる危険性があった。また、長期服用によって薬物依存が生じやすいことも問題となった。ちなみに芥川龍之介や太宰治が耽溺し、また自死目的で使用したのはブロモバレリル尿素であった。