魚がぐるぐる回り続けて死ぬ謎の奇病、ついに原因を特定、米フロリダ沖の絶滅危惧種に打撃
複合してより強い毒性が
初期の水質検査では、毒性を持つ渦鞭毛藻が異常発生する「赤潮」の可能性は除外された。また、海水に溶けている酸素、塩分濃度、pH、温度はすべて正常の範囲内であり、原因とは考えられなかった。 最初の突破口は、米フロリダ・ガルフ・コースト大学で藻類ブルームを研究する海洋生態学者マイケル・パーソンズ氏の研究によってもたらされた。氏の研究で、海水サンプルから、海底に生息する渦鞭毛藻であるガンビエールディスカス属の一種が通常よりも高い濃度で検出されたのだ。 この藻類はシガテラ毒(シガトキシン)という神経毒を生成する。この神経毒をもつ魚介類を食べた人は、嘔吐や吐き気、神経症状を引き起こす「シガテラ」と呼ばれる食中毒になることがある。 「私たちの最初の手がかりは、毒素を生成するこの藻類でした。人間の健康にも影響を及ぼす可能性があるため、まずはそこから調査を始めました」とロバートソン氏は説明する。 ロバートソン氏らの研究チームは、症状を示す魚の筋肉からはあまり毒素を発見しなかったが、不純物をろ過する役割を持つ肝臓には、シガテラ毒からガンビエールディスカス属以外の渦鞭毛藻が生成する様々な毒素までがぎっしり詰まっていることを発見した。 「これが核心部分です」とロバートソン氏は言う。シガテラ毒だけが原因ではない。「私たちの研究室で集めてきた証拠によると、特にソーフィッシュに見られる異常な行動は、多くの異なる海底藻類の毒素に複合的にさらされたことに関連していると考えています」 「複数の毒素を生成する藻類もいるため、一対一の関係ではありません」とパーソンズ氏は補足する。
ソーフィッシュに大きな打撃
原因不明の出来事により、海草や藻類から一旦離れた渦鞭毛藻は、水中全体に広がっただけでなく、海底にも集まったとロバートソン氏は説明する。 海底はまさに、全長約5メートルのソーフィッシュがノコギリ(ソー)を使って他の魚やカニなどを捕食する場所だ。 死亡したソーフィッシュの一部をロバートソン氏らが調べたところ、肝臓とエラの両方で毒素濃度が最も高かった。 つまり、高濃度の毒素を含む水がソーフィッシュのエラを通過し、神経に影響を与えたということだ。また、ソーフィッシュは毒素を含んだ獲物も捕食していた。 ソーフィッシュの将来を危惧した科学者たちは、2024年春に米国史上初めて、謎の奇病の影響を受けた絶滅危惧種のソーフィッシュを救助する前例のない緊急活動を開始した。 2024年4月5日、科学者たちは苦しんでいたソーフィッシュを救助し、米フロリダ州のモート海洋研究所・水族館でリハビリを開始したが、そのソーフィッシュは生き延びることはできなかった。その後、症状を示すソーフィッシュの報告は減少したが、同様の事態が再び発生した場合に備え、対応チームと手順書が現在用意されている。