「検証・安倍政権」<アベノミクス編>GDPや雇用はアップ、実質賃金が下がった背景
総括
これらを統合すると、「全体の就業者数が上がり、失業率は減少。就業者数の多くが非正規のため、給与額への減少圧力が高まり、賃金が物価ほど上昇せず、実質賃金が低下した」という見方になるのではないでしょうか。 では、非正規従業員や高齢者の再雇用は増えないほうがいいのでしょうか。こういう例があります。10人中5人が正社員で400万円の年収、5人が無職という場合(失業率50%)、10人の年収総額は2000万円で、労働者一人あたりの年収は400万円です。 この無職だった5人のうち3人が年収200万円で労働に参加した(失業率20%)とすると、10人の年収総額は2600万円に増加しますが、労働者一人あたりの年収は325万円に下がってしまいます。 労働市場に参加してなかった5人に、これまで労働市場に参加していた5人と同額の賃金を支払うということにならない以上、一人あたり賃金が下がるのは当然です。失業率が下がる(労働者が増える)過程で、最初は労働者全体の平均賃金は下がるものです。しかし雇用が続けば賃金も上昇するでしょうし、全体の富も増えます。最終目標は“全員年収400万円”としてもいいでしょうか、最初の一歩として失業率の向上を図ることのほうが合理的です。 その意味で、経済政策・雇用政策において失業率を下げることを大きな指標として議論することは大いに意味のあることといえますし、「失業率は下がったが、実質賃金も下がった」と意見は、“木を見て森を見ず”というものではないでしょうか。 経済や雇用対策の議論では、失業率をどれだけ下げるのか、その方策として何を考えているかという点を注視するというのは、私たちにとっても身近な問題であり、重要なポイントの一つといえるでしょう。 (ライター:宇城健弘)