岡村和義 メン・オブ・ザ・イヤー・ベストコラボレーション賞── アーティスト2人の夢のコラボ!個性が重なり音楽性が増幅
岡村靖幸と斉藤和義が新ユニット「岡村和義」の結成を発表したのは、2023年のクリスマス。以来、曲を立て続けにリリースし、ツアーも開催。怒涛の快進撃が話題を呼んだ2人が、GQ Men of the Year 2024のベスト・コラボレーションを受賞した。 【写真を見る】怒涛の快進撃が話題を呼んだ 岡村和義が、GQ Men of the Year 2024のベスト・コラボレーションを受賞。
異質な二人が奏でるハーモニー
磁石のS極とN極が引き合うように、電池のプラスとマイナスが触れ合って電流が走るように、そのスタイルにおいて対極にあると思われていた二人は見事に融合し、魅力的な音楽を奏でた。ともに30年以上ソロ活動を続け、日本の音楽シーンを牽引してきたシンガーソングライターの岡村靖幸と斉藤和義。独自のスタイルを貫いてきたミュージシャン同士がユニット、「岡村和義」を結成したのは、2023年末のことだ。二人は実は7~8年前から飲み友達であり、楽器が置いてあるバーで夜な夜な即興セッションを繰り返してきた仲だった。2020年1月には、岡村がMCを務めるラジオ番組のゲストに斉藤が登場し、特番の中でメロディーと歌詞を共作し1曲仕上げる(それがのちの岡村和義の楽曲「春、白濁」となる)という離れ業をやってのけた。ユニット結成は突然のスタートダッシュに見えたが、当人たちのウォーミングアップは充分できていたのだ。 「普通はアルバムが発売されてからツアーに出るんですが、今回はツアーのスケジュールが先に決まっていて。でも、岡村和義の曲を誰も知らないのにライブできないよね、ということでツアー前の5カ月間、大体ひと月に1曲というハイペースで新曲を出すことになりました。僕は普段そういうペースで仕事をするタイプではないので、非常に勉強になったし、新鮮な体験でした」(岡村) 「ここ2~3年の間、プライベートでセッションをしていたので、出来かけの曲はそこそこあって。でもお尻まで完成していなかったり、歌詞がついていなかったりの状態だったので、それらを整えていけば10曲ぐらいはあるね、っていう話はしていました」(斉藤) 「だから二人の間では勝算はあったんです」(岡村) 「曲を整える作業も一人だったら無理だっただろうけれど、岡村ちゃんと二人ならできるだろうと思っていました」(斉藤) それにしても2024年1月から5月までに6曲の配信リリース、5月・6月には全国8都市12公演のライブツアーを敢行。リリース曲それぞれのMV制作に、現在も継続中のポッドキャスト配信、テレビ・ラジオ出演と、フルスロットルで駆け抜けた2024年上半期だった。 「最初のうちは単純に『セッション楽しいね』だったのを、一つのプロジェクトにするためにはスタッフ一丸となって勝ち戦にしなければならないから。僕たちもスタッフも『これはいけるな』という実感を持てたのが『サメと人魚』という曲で、そこから本腰を入れることになりました。単に2人のミュージシャンが組んだというだけではなく、ちゃんと成功させなければならないので、プロモーションにも謙虚に取り組みました」(岡村) 「『ふだんあまりメディアに出ない岡村ちゃんを引っ張り出してくれてありがとう』なんて、岡村ちゃんのファンから感謝されました(笑)」(斉藤) 「ラジオ、テレビ、雑誌……うわー、こんなに出なきゃいけないのかと思っていましたが、斉藤さん曰く『僕はふだんこの4倍はやっているからねー』って。ほんとに勉強になりました」(岡村) 互いのソロ活動では作詞・作曲・アレンジまですべて自分自身で手がけ、いくつかの楽器演奏までもこなすオールマイティな二人。強烈なエゴがぶつかり合うことはなかったのだろうか? 「いつもなら自分一人でここもあそこも、って頑張ってしまうところを、ある程度お任せできたのも、相手が岡村ちゃんだったからこそ。途中まで曲を作って残りを託したり、アレンジをやってもらったり、どんなのが返ってくるか毎回楽しみでした。自分が年齢を重ねて大人になったせいもあるかもしれませんが、相手に委ねられるラクチンさもあって。だからエゴがぶつかることなんて全くなかったですね」(斉藤) 「お互いがお互いをうまく補完し合えたんでしょうね」(岡村) 「何か投げると、岡村サウンドで戻ってくるけれど、それがちょっとロック寄りの音質だったり。いつもの岡村でもなく、ふだんの斉藤でもなく、ちゃんと岡村和義になっているなーと、どの曲にも実感できました」(斉藤) わかり合える秘訣の一つには年齢が1歳しか違わないこともあったという。 「僕と斉藤さんは聴いてきた音楽や観てきた音楽番組がほぼ一緒。彼がRCサクセションやビートルズが好きなように、僕も好きだしね。僕がブラックミュージック寄りで、斉藤さんはロックやパンク、アコースティック寄りだと捉えられているかもしれないけれど、それは表層であって。彼が好きなビートルズはR&Bやモータウンの影響を受けているし、彼が好きなローリング・ストーンズはブラックミュージックの影響を受けている。僕が好きなビートルズにもアコースティックな面があるし、すごくポップスでもある。だから根っこの部分では通じ合っているんです」(岡村) 成熟した二人だからこそのメリットもあった。 「活動を通して『ここが勝負だ』とか『ビシッと決めなければ』という局面に立った時、その厳しさや緊張感が二人だとちょっと緩和される。勝負というより“パーティー感”が出てくる。それがソロ活動とは違うなと思いましたね」(斉藤) 「そうそう、ツアーでは井上陽水と安全地帯の『夏の終わりのハーモニー』をカバーしたのですが、歌の中に出てくる、夢もあこがれもどこか違ってるけどというくだりはまさに我々のことだなと思ってね。僕と斉藤さんでは性格も趣味嗜好もまるで違うけれど、だからこそハモるんでしょうね」(岡村) 二人は以前、一緒にドキュメンタリー映画『ザ・ビートルズ:Get Back』(2021)を観て大いに盛り上がったという。1969年、最後のライブとなった事務所屋上でのセッションの様子と、それに至るまでの、最後の2枚のアルバム制作過程を捉えた膨大な未公開映像を復元・編集した作品だ。 「ビートルズはそれまで多重録音を駆使して非常に複雑な音楽を作っていたのですが、心機一転、生演奏一発で録ろうというコンセプトでメンバー4人が集まり、最終的にはルーフトップで演奏したものが収録された。これに触発されてね。ふだん僕の制作スタイルは音を構築していくタイプなのですが、生演奏の味わいがある音楽を斉藤さんとやりたいと思ったんです。だから我々のどの曲にもリズムマシンは入っていないし、ドラムもギターも斉藤さんが自分で演奏しています。実際、サポートミュージシャンを入れて一発で録音した曲もあるし、編集した曲もあるけれど、打ち込みで作ったものはいっさいないです。今の若い子たちはボカロ曲などになじんでいるのかもしれませんが、それが良いか悪いかは置いといて、強力なギターソロや、生身の人間が演奏する魅力が強く前面に出たものをやりたいという欲求が僕らにはありました」(岡村) 「映画の中でビートルズのメンバー同士、意見が衝突する場面もあるけれど、当時彼らはまだ30歳にもなっていないんですよね。僕らはもう年齢も年齢だし、諍いはなかったですね」(斉藤) 「お互いを尊敬していますから」(岡村)