岡村和義 メン・オブ・ザ・イヤー・ベストコラボレーション賞── アーティスト2人の夢のコラボ!個性が重なり音楽性が増幅
2人にとってのジェントルマンの定義とは?
30年以上ソロ活動を続けていると、周囲やファンが望む「岡村靖幸像」や「斉藤和義像」にがんじがらめになってしまうこともあるだろう。岡村和義としての活動では、そういったある種のレッテルから離れた自由さを得られたのだろうか。 「それはあるでしょうね。お互い、これまで築いたブランドイメージみたいなものがあると思うのですが、それをいい意味で壊している……というよりも新たな面を提示して、イメージが増殖している感じですかね」(岡村) 「そう。世の中には我々の組み合わせを意外に思う人もいるだろうけれど、だったらそれを逆手に取ったれと。斉藤ファンから『せっちゃんってそんなに幅広いわけ!?』と思われたら、それは僕のキャリアにとってプラスだし好都合だと思った。でも30代ではできなかったでしょうね。50代だからこそ余裕で楽しめる」(斉藤) 「ひと言で言うと、無欲だからうまくいくんでしょうね。お互い長いキャリアがすでにあるから、変にガツガツしたりせずに。もちろん売れたほうがいいけれど、発端ではそういうつもりで始まったわけじゃないから」(岡村) それぞれのロング&ワインディング・ロードを歩んできた二人があるとき交錯し、友情が生まれ、異なる才能が混じり合い、互いを尊重しながら新しい音楽が生まれた。50代半ばを過ぎてもなお発見があり、面白がり、挑戦する二人の姿は、多くの人々に希望を与える一つのロールモデルになったのではないだろうか。 ところで、二人にとってジェントルマンとはどんな人なのか、聞いてみた。 「品があること。昭和的なフェミニズムを持っている人ですかね。最近は『レディーファースト』という表現すら、ジェンダーをフラットに捉えていないからよろしくないと言われるようですが、僕にとってはレディーファーストを自然に実践できるような人がジェントルマンかな。ジェントルマン談義は、二人でよくするんですよ」(岡村) 「『僕って紳士だよね?』って岡村ちゃんがよく言っています(笑)」(斉藤) 「それは、お互いでしょう(笑)。斉藤さんは人から好かれるので周りにいろんな人が集まってくる。そういう人間的な魅力があるところもジェントルマンの秘訣なのかもしれません」(岡村) 「ジェントルマンって『粋』に通じるのかも。江戸時代にふんどしに素敵な柄が入っていて、表から見えないところに凝るというのが粋で、それを人に見せちゃうのが野暮だと」(斉藤) 「そこは我々も、どんなにベタベタ仲良くしていても野暮と思われないよう死守しています」(岡村) 「世間一般が思っている岡村靖幸って、王子様ぽくて孤高の存在って感じ。本人には、素の状態でそういうイメージが板についている部分もあるんです。その姿勢に誰も近づけないんじゃないかと思いがちだけど、知り合ってみると全然そうじゃない。ちゃんと胸の扉は開いていて、自分と違う意見も一回はのんで整理してみる。そういうところが岡村ちゃんは紳士だなと思います」(斉藤) 6月にツアーを終えていったん岡村和義の活動は休止。現在はそれぞれのソロ活動に戻り、ポッドキャストだけは不定期に続けているが、ユニットの今後の予定はあるのだろうか? 「時期はまだ定かでないのですが、アルバムを完成させた上でツアーをしたいですね」(岡村) 「『Get Back』に感化されて、スタジオでの制作風景を撮った映像も膨大にあるので、ゆくゆくは何らかの形でお見せできたらいいなと」(斉藤) 「ルーフトップ・コンサートは、斉藤さんが『ずっと好きだった』のPVでもうコピー済みだから、やらないでしょう」(岡村) 「ならば次は『イマジン』へのオマージュということで、白い部屋に白いグランドピアノを置いてやりますか」(斉藤) 「どっちがヨーコ役をやるの?」(岡村) 「そりゃ、岡村ちゃんでしょ。ロングヘアーのヅラかぶって(笑)」(斉藤) 「えーっ!? なんでだよぉ(笑)」(岡村) 酸いも甘いも噛みわけた大人の男たちが、まるで部室で話している高校生のように無邪気に笑い合う。彼らのクオリティの高い本気の遊びにこれからもドキドキさせられ続けたい。 岡村靖幸/Yasuyuki Okamura 1965年、兵庫県生まれ。吉川晃司や渡辺美里などへの楽曲提供を経て1986年「Out of Blue」でデビュー。代表作に「だいすき」「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」「ステップアップLOVE」など。ブラックミュージック的ファンクネスとポップスが融合したグルーヴ感ある楽曲と唯一無二の歌詞世界はもとより、ライブでの独特のパフォーマンスも魅力。 斉藤和義/Kazuyoshi Saito 1966年、栃木県生まれ。1993年「僕の見たビートルズはTVの中」でデビュー。代表作に「歌うたいのバラッド」「やさしくなりたい」など。2011年には中村達也と「MANNISH BOYS」を、2018年には寺岡呼人・奥田民生・浜崎貴司・YO-KING・トータス松本と共に「カーリングシトーンズ」を結成。ソロでは弾き語りからバンドスタイルまで幅広い表現で精力的に活動中。 写真・阿部裕介(YARD) 文・松原麻理 スタイリング・島津由行 ヘア&メイクアップ・マスダハルミ(岡村靖幸)、市川摩衣子(斉藤和義) 編集・橋田真木(GQ)