日本を救った長谷部誠のキャプテンシー
2006年のワールドカップ・ドイツ大会に出場したジーコジャパンでキャプテンを務め、現在は古巣ガンバ大阪のU-23チームの監督である宮本恒靖氏から、今年に入ってこんな言葉を聞いた。 「キャプテンとは監督を見ながら、チームのなかでリーダーを務められる選手。監督とは一人でほぼすべてを決断しなければいけない存在であり、だからこそキャプテンと上手くコミュニケーションを取らなければいけない」 賛否両論が渦巻くなかで日本代表が決勝トーナメント進出を決めた、日本時間28日深夜のポーランド代表とのグループリーグ最終戦。試合終盤の西野朗監督とキャプテンのMF長谷部誠(アイントラハト・フランクフルト)とのやり取りを見ていて、キャプテンと監督の両方を経験している宮本氏が発した言葉がロシアの地で具現化された、という思いを抱かずにはいられなかった。 ポーランドが右コーナーキックを獲得した後半33分すぎから、リザーブに回っていた長谷部が慌ただしくピッチの外を動き出した。ゲームキャプテンのGK川島永嗣(FCメス)の近くへ駆け寄って何かを叫んだかと思えば、慌ててウォーミングアップを開始する。 この時点で日本は0‐1で負けていた。交代のカードは残り1枚。引き分け以上でグループリーグを自力で突破できる状況を考えれば、最後の一人として本田圭佑(パチューカ)か香川真司(ボルシア・ドルトムント)を投入するのがセオリーとなる。 しかし、同時間帯に行われていた一戦で、コロンビア代表がセネガル代表から先制点を奪ったことを受けて、準備を急いでいた長谷部が同37分にFW武藤嘉紀(マインツ)に代わって投入された。理由は明白だ。「17番」の一挙手一投足が指揮官のメッセージと化したからに他ならない。 このまま試合を終えていい。余計なカードはもらうな。ミッションを完遂した先に待っていたのは、勝ち点、得失点差、総得点、直接対決の結果で並んだセネガルを、今大会から導入されたフェアプレーポイントで上回ってのグループHの2位死守だった。 「本人にはまだ直接伝えてはいませんが、長谷部にはぜひキャプテンをやってもらいたい。そういうプレーヤーだと考えています」 初陣となる先月30日のガーナ代表とのワールドカップ壮行試合へ向けて、代表メンバーが発表された同18日の記者会見。西野監督がこう明言した瞬間に、フィールドプレーヤーでは最年長となる34歳のベテランが、3大会連続でキャプテンマークを左腕に巻くことが決まった。