吐き気乗り越え「やっと任務遂行できた」パリ五輪。一日16時間の練習経て近代五種・佐藤大宗が磨いた万能性
調子のバロメーターは「吐き気」
――佐藤選手は試合直前の緊張具合が、調子のバロメーターになるそうですね。 佐藤:そうなんですよ。恥ずかしい話なんですが、緊張しいなので、緊張したらすぐに吐き気を催しちゃうんです。しかも、その吐き気が出てくれば出てくるほど調子がいいんですよ。パリ五輪では、最終種目のレーザーラン(射撃+ランニング)のスタート1分半前に本当に吐いてしまって(苦笑)。でも、「お、これは今日調子いいな」と思いました。 ――不安で緊張から固くなって実力が出せないケースもありますが、佐藤選手の場合は逆転の発想なんですね。 佐藤:すべてを逆転の発想で考えるタイプで、本当に嫌なことがあった時こそ、ポジティブに考える習慣ができています。 ――インタビューやバラエティ番組の出演を拝見すると、競技中の厳しい表情や熱い雄たけびシーンとは異なる、ユーモアあふれる語り口も印象的です。 佐藤:もともと楽しいことが好きなので、競技の話をする時でも、楽しく話をしたいと思っています。嫌なことが続いて気持ちが沈んでいると、自分だけじゃなく家族や周りの方にも影響を与えてしまうと思うので。日々、後悔を残さず一日を終えられるように、いつも楽しいことを考えるようにしています。 ――近代五種は個人競技ですが、いろいろな人と交わる競技だからこそ、そうやって周囲の人と影響を及ぼし合う部分もありますよね。 佐藤:そうですね。最終的に戦うのは自分ですけど、支えてくれる方々がいるので、その人たちのために頑張ることができます。自分がつらい時でも、そういうチームワークや応援の力が自分を突き動かしてくれますから。それに、きつい時こそ逆転の発想で、「終わればおいしいお酒と奥さんの手料理のだし巻き卵が食べられる」と考えて頑張れるので……けっこう単純なんですよね(笑)。
ロサンゼルス五輪への思い
――選手村ではクライミングの安楽宙斗選手と楢崎智亜選手と相部屋になったそうですが、違う競技の選手から刺激を受けることも、オリンピックならではだったんじゃないですか? 佐藤:それは間違いないですね。毎朝部屋で「おはようございます」と2人と顔を合わせるときに「安楽選手も楢崎選手もイケメンだなー」と思って(笑)。クライミングの中でも日本を引っ張って世界で活躍されている2人なので、一緒の部屋でいいのかな?と恐縮しながら、毎日勇気をもらってましたね。2人と一緒の部屋だったからこそ取れたメダルだと思ってますので、ありがたいご縁だったと思います。 ――次の目標に向けて、すでにハードなトレーニングは始まっているんですか? 佐藤:それが、オリンピックが終わってからは競技のPR活動などがメインで、トレーニングというトレーニングはまだ始めていないんです。オリンピックの時はケガをしながら戦っていたので、まずはそのケガを治して、PR活動を頑張って、10月の後半から11月にかけて練習を再開できたらいいなと思っています。 ――少し休んで、英気を養ってください。最後に、4年後のロサンゼルス五輪への展望を聞かせていただけますか? 佐藤:1年ごとに先を見据えて頑張ろうと考えているので、次のロス五輪を狙うかどうかはまだわからないです。ただ、目標が定まったときには、パリで見えた課題を修正して、もっといい色のメダルが取れるよう、全力で挑むつもりです。 <了>